父さんと母さんは、そんなことばを耳にしても、だまって笑っていた。なんといわれようと、息子がさびしがらないでいるのが、いちばんなのだ。でも、やっぱり、こんなに貧しいのに、犬を飼っていることが旦那の耳にはいったら、ぜいたくだといわれるのではないかと、気にはしていた。
ネムは、ジドと毎日あそぶうちに、だんだん丈夫になっていった。足がひどくまがってはいるが、ちょっとした小石はとびこえられるようになった。小石をとびこえるときは、大声でピョーンというので、ジドはその声にあわせて、前足をそろえてピョンとはねた。
そんなある日、ジドが走りながら、少し大きな石のうえをとびこえた。それをみたネムは、大声で「ピョーン」といって、力いっぱいその石のわきをとんだ。
いつもよりずっと大きくとべたので、声をあげて笑った。するとジドはしっぽをはげしくふって、ネムの顔を横目でみながら、こんどは石のうえを、高く、大きくとんだ。
ネムはよろこんで、両手をひろげ、まがった足をせいいっぱいのばして、石のうえをピョーンととんだ。とべた! とびこえられたのだ。ジドは大よろこびで、ネムのまわりを走りまわり、ネムは、笑いながらおいかけた。
そのとき、こんな声がきこえた。
「イイゾ、イイゾ。コンドハ、モット、タカク、トボウ」
ネムには、それがジドの声だとわかった。どうしてだかわからないけど、そう思ったのだ。
「ど・ぶ?」
ジドはネムの目をみて、ワンとほえると、こんどは草のうえを、前足をそろえ、長い耳をひらいたり、とじたりしながら、高くとんだ。それをみたネムは、大声でピョーンといって、両手をふり、足をそろえてとびあがった。
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