三 バザー・ナーダ(聖書の木を売る店など)

ぼくは樽の中を覗いてみた。するとサンスクリット文字のごときもの、ハングル文字のごときもの、甲骨文字のごときもの、楔形(くさびがた)文字のごときもの、アラビヤ文字のごときものなどがうようよといて、泳ぎまくり、跳ね回っていたのである。

そしてまた、楷書の魚もおり行書の魚もおり草書の魚もいた。さらに大文字の魚もいれば、小文字の魚もいれば、筆記体の魚もいれば、ブロック体の魚もいた。

そして中にはそれらの合いの子のごとき混合物のごとき異種混合のごとき文字の魚もいたり、どのような文字にも属さない、地球上のどの人種が使っているのやら皆目見当のつかない文字の形をした魚もいたりした。

しかもそれらがみんな目を持ち、鰓を持ち、鱗を持ち、中には尾びれ、背びれを持つのもあり、鱗のないものでは血管が浮き出ているのもあった。

ぼくは途方に暮れてしまった。樽の中には、その半ばまで水が入っていて、今述べたごとき無数の半字半魚の生き物がうようよと群れをなし、盛り上がるようにして泳ぎ、重なり、飛び上がり、くんずほぐれつしていたのであった。

想像を絶する生き物群であり、なぜそのようなものが売られているのか、それもまた想像を絶していた。樽の脇腹には横文字で、「barrel de babel」と書かれてあった。「バベルの樽」とでもいうものか。