三 バザー・ナーダ(聖書の木を売る店など)
「…さあて、今日は一つ、世にまたとない珍しい一品をお目に掛けようかの。この小さな瓶でござんすがな。
まあ、わしのとこのどの品物も世にまたとない一品ぞろい。ギネスブックも顔負け。そこに登録されておるすべてのアイテムも、わしのこれら逸品に比べれば、凡百、凡千、話にならんものでござんして、だからの、わしはそんなボンクラキツネブックなどには一切登録などしておらんのです。
これだ、分かるかの。見た通り、この瓶の中には、何も見えないの。透明じゃ。しかし、いいかの。この中には、わが太陽系は、土星の、その周辺を巡る第六番目の月たる、エレミオス星において、わが国の宇宙周航船たる「モラバジーヌ号」によって採取された「神のあくび」というものが入っておるのです。
地表上の温度がつねにマイナス95度という極寒の星であり、氷の星であるのだそうじゃがの。そこに降り立った隊員が、地上五十センチの大気中、一カ所だけ、他の場所よりはるかに温かい地点があって、温度計によれば、まさに0度。
他の場所よりすれば95度も高く温かい地点があって、それがかすかな半透明のベッコあめ色の雲となって、どこまでもどこまでも上空へと棚引き、揺曳 (ようえい)しているのが見えたということでござった。隊員はまさにその不可思議千万、奇跡の煙を採取して持ち帰り、それに「神のあくび」と名づけたのでござる。
さあ、とくとご覧あれ。この「神のあくび」をご覧なされい。
ただ、いいですかな。一分以上見つめたらばですぞ、神のあくびに誘われて、眠気を催し、一週間以上眠りに就くということになりまする。十分以上見つめたら十週間睡眠状態に陥ることになるですな。
そして、何よりも恐ろしいのはですぞ。この蓋を開けたならば、中の神のあくびが漂い出て、一瞬にして、世界は神のあくびに襲われ、全人類はもちろん、全生物があくび一声、千年を一期として、眠りに就くという事態になることじゃな。いや、危険極まりない一物でござんす」