ナーダの国へ難破漂着す
光が走る、突き刺さる、瞼に、瞳に、鋭く突き刺さってくる。
眩しい、痛いほど眩しい。ふっと、瞼が開く、瞳が開く。千の光の中へ、おびただしい光に抱えられ、光に抱きすくめられて、光さざめく中、手も足も、体全部、横たわっているのが、見える、見えて来る。目に見えているこの体は誰だろう、誰のだろう、ぼくか、ぼくのか、しかし、ぼくとは誰だろう。
じゃりじゃりと、砂浜のようなところ、時折、足のどこか、水しぶきのようなものがかかり、潮のうねりのような音の聞こえるこの場所、この光景はどこなんだろう。
這い出す、這い上がる。光の中へとさらけ出る。立ち上がろうとする。膝ごと、がくがくと、崩れる。ぐずぐずと、ひるこの身、ひるこの骨。肘が痛い、腕が痛い、膝が痛い、体中がぎしぎしと痛む。立ち上がらねば、立ち上がらなければ。眩暈の中を、眩暈と共に立ち上がる、そしてまた倒れる。
ぼくは辺りを見回す。倒れたまま、転がったまま、見回す。むんむんと、暑さが亡霊のごとくうごめいている。その暑い湿気に、光が濡れている。光が水飴のごとくねばつく。暑い水飴の光だ。瞼がねばつく、瞳がねばつく。見えて来る。
徐々に、かすかに、朦朧と、白い砂浜、白い陽炎、砂利や貝殻や海藻の切れっ端が、さわさわと、ざわざわと、見えて来る。その上を、カニが、長さ二センチもある、いやにでかい、体よりも大きい、ぎざぎざのハサミを持ったカニが、何匹も、ゆっくりと這い回っている。
ふいにそいつが目の前に近づき、立ち止まり、出目の目を、じっと突き出し、ぼくの顔を見上げる。かすかに、極細の、うぶ毛のごときものが生え、二本のハサミをゆっくりと曲げ、目の前のぼくが岩か木か動物か昆虫か見定めようとするごとく見つめ、やがて、こいつは食えたものじゃないと、ふいに向こうへと這い出し、去って行く。