「これでは話にならないな。一つでもいいから、それがどんな商品なのか説明してくださいよ」
「ここには話して分かるような品物は置いておりません」
「いよいよ分からない。それでは何のためにあなたはここに座り、ここで商売しているんですか」
「だから言ったでしょう。私は百年後の客を待っていると」
「だからそれでは商売にならないと言ってるんです」
「徂徠先生いわく、天を楽しむものにあらずんば待つことあたはざるなりと」
「いよいよ分からない。商売は客が理解し欲しがるものを売って初めて成り立つものではないんですか」
「スピノザ先生いわく、優れたものはすべて困難かつ稀少なるものであると」
「いよいよ分からない。あなたはわたしたち客を相手にしているんでしょう」
「私は未来を相手にしています。私の商売は未来商売です」
「いよいよ分からない。頑固じじいもいいとこだ。頑固では商売はできませんよ。いいですか、たったの一つでもいいですから、商品の説明をしてくださいよ」
「あなたも頑固者ですね。それでは一つだけ説明をしておきましょう。いいですか。この木何の木と言われる。ここに書いてある通り、聖書の木です。それでもうお分かりでしょう」
「それでは皆目分からないから聞いているのです。聖書の木とは何ですか」
「唐変木の朴念仁と話をしても始まらない」
【前回の記事を読む】1分見つめると1週間、10分なら10週間の眠り…では蓋をあけたなら?