其の壱
[二]
「うぅむ、人並みの身体にして欲しいということだったねえ」
骸骨は固唾を飲んで身を乗り出した。
「私の専門は整形外科でしてねえ、形成外科ではないんですよ」
「ハア‥‥」
骸骨の表情が曇り始めた。
「私が治療出来るのは骨折とか関節の疾病でしてね、見たところ貴殿は病人とは思えないし、どうしたものかねえ」
その口吻に、骸骨はまるで穴の開いた風船のように萎んでいく。
「先生、ソコヲ何トカ‥‥シテ戴ケナイモノデショウカ?」
骸骨はすっかりしょげてしまった。
「小生ニハ先生シカ頼レル人モ居リマセン。ココヲ訪ネルノダッテ、随分ト勇気ガ要ッタノデス」
骸骨の言うところでは、この訪問については随分と長い間悩んでいたらしい。小学校からわずか数百メートルとはいえ、人目につかぬようにして来るのは大変なことだった。仮に上手く来られたにしろ、治療を拒否されることも考えた。
下手をすると大騒ぎになるかも知れないのだ。だが天祐とも言うべきことが起きた。その渋谷医師の方から学校を訪ねてくれたのである。それが判った時どんなに嬉しかったろう。
社会へ出てみたいという永年の宿願が実現するかも知れない。そう思うと、危うく標本室から飛び出して抱きついてしまうところだった。だがそこは我慢して、夜の更けるのを一日千秋の思いで待ち焦がれていたのである。
渋谷医師は唸ってしまった。救いを求めてくる限り、それは誰だって患者に相違ない。だがどう対処すべきなのか。彼はあらぬことを想像していた。仮に石膏で身体をこしらえたとしても、乾いたら固まって動けなくなりそうだった。
粘土で造ったにしろ重たくて身動きが苦しそうだった。では紙粘土ではどうだろうと考えて馬鹿馬鹿しくなった。これは医師の仕事というよりもむしろ彫刻家の出番だったのである。
その時細めに開いていたドアの陰に人影が現れた。その人はそのまま通り過ぎようとしたのだが、声に誘われてつい中を覗いてしまい、そのまま声も出せずに硬直してしまった。そうしてどれくらい時間が経ったのだろう、ふと廊下の向こうで人の気配がした。一瞬躊躇したのち、その人はそっとドアを引いた。チッと微かな音を立ててドアは閉じた。
一方何も知らない二人はそのまま対峙していた。
「ねえ君、僕の考えでは相当時間がかかるねえ、これは大事だよ」
「ハア、ソウデスカ」
骸骨は神妙に聞いていた。
「第一どうやってその身体を作り上げるか、材質だって検討しなけりゃいかんでしょう」
「ハア、ソウデスネ」
「それで上手く材料が手に入ったとしても、今度はそれをきれいに仕上げなければならない訳だ」
彼は思案に暮れていたが、ふとあることを思いついた。義肢装具士なら上手くやってくれるかも知れない。