[三]
夜半の雨はいつの間にか上がり、翌日も快晴となった。朝陽を浴びて窓の曇り硝子が眩しい程に輝いていた。妻の彰子が起きがけにカーテンを引いていったらしい。
居間の方で絵里子のはしゃぐ声がしていた。時々それに応える妻のものやわらかな声が響く。今日はドライブに出かける約束をしていた。天気がよかったら岬巡りをするつもりでいたのだ。
窓越しの朝陽を見ていると、目の前に青々と広がる海が見えるかのような気がした。だがむくりと身を起こすと頭がズキズキと痛んだ。完全に宿酔いだった。ベッドでそのままの姿勢でいると、昨夜のことがありありと蘇ってきた。
訪ねてきた骸骨、そして交わしたことば等々。だが部屋中に溢れる眩い陽射しを目にしていると、それらがみな戯けた夢のように思えてくる。
どうして標本が動くことなどあり得よう。あれは深酔いの幻覚に過ぎない。そう自らに言い聞かせようとしたのだが、箪笥の抽出に目を向けて血の気が引いた。靴下がまるで舌べろのように垂れ下っていたのだ。それは彼が自分で引っ掻き回したものに相違ない。
居間に入ると、テーブルの上に所狭しとご馳走が並んでいた。
「お早う。絵里ちゃん、今日は楽しみだねえ」