其の弐

気がつくと歩道の端に立っていた。タクシーが疎らに停まり、そのテールライトの赤が目に染みた。

「何処ニ行コウ‥‥何ヲシテ生キテイコウ?」

自分の口にしたことばがまるで他人の声のように思えた。骸骨はなおも放心したように立ち尽くしていた。タクシーが一台滑るように寄ってきて、目の前でドアが開いた。骸骨は崩折れるように中へ吸いこまれていった。何故乗ったのか、どこへ行くのか自分でも判っていなかった。

「お客さん、どちらまで?」

五十がらみの運転手がミラー越しに尋ねた。骸骨は茫然としていた。

「お客さん、どちらまでですか?」

運転手は少々語気を強めた。

「海‥‥マデ」

自身でそう応えたのに気づいていない様子だ。

「え、海? チッ、酔っているな」

運転手は舌打ちすると車を走らせた。

「お客さん、品川方面でいいですね」

ことばつきは丁寧だが、断定的にそう言った。骸骨は何も応えなかった。運転手はミラー越しに後を見ると口の端を歪めた。

車は夜の街を滑るように走った。エンジンが低く唸り、時々メーターがカチッと上がった。車窓に夜の街が現われては消えていく。