「ハー……。驚かせないで下さいよ、松岡さん。ドッキリカメラじゃないんだから」
「かび臭いネタを言うな。それより状況はどうなんだ。田所のお怒りの具合は?」
「どうしようもないですよ。ボルテージは下がらないし、さっきまで絞られていたんですよ」
川原は心配そうな顔で山沖の話を聞いている。竹村も横でなぜかうなずいている。二人ともはしを持ったまま首から下はピクリとも動かない。魔法をかけられた人形のように見える。
「そうか。で、お前の気分はどうなんだ。気落ち加減というか、落ち込み具合は?」
「落ち込んでないと言ったらうそになってしまいますけど、正直言ってどうしていいのか分からないんです」
山沖は自分を見つめる二つの視線を気にしながら、残ったビールを飲み干すと、
「もう一杯、お願いします」
と店員を呼び止めて追加注文していた。
俺はすかさず背中を見せた山沖に向かって術をかける。磔(はりつけ)にされてうなだれている農民の姿が浮かび上がった。
(山沖のダメージは思ったより大きい。どうする太郎?)
自問していた。
「山沖、田所のきげんを直させるのも大事だが、発注ミスのフォローはどうするんだ?」
ガラナ酎ハイを飲みながら、ジョッキを手にして考え込んでいる山沖の返答を待った。
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