「驚き! 松岡さんって、キューピッドもやるんですね」
竹村は酔っている、と思う。意味のつながらない話を間に突然入れてくる。
「それで、松岡さん。山沖さんの救済はどうすればいいんですか?」
「うーん。ちょっと、シンキングタイム。その間に二人で料理を食べてて下さい」
「はーい。川原さん、後は松岡さんに任せましょう」
竹村のリードに川原は乗せられて、二人は注文していた料理を食べ始めた。俺はガラナ酎ハイを口に含みながら、作戦を練り始めた。最初に山沖を好きだと言った川原の憑き物に変化があるかどうか調べてみた。テーブルの下から組んだ指を向けてみる。
川原の背後は戦場で働く看護師に変わっていた。傷ついた山沖を受け入れる態勢になっていると思った。
(後は、当事者の山沖と田所課長だ。どうする? 山沖を呼び出すか? 田所課長の背後はどう変化させる? 二人の背後を少なくとも同格に近づけなければ平行線のままだ)
「山沖を今からここに呼びたいんだけど、二人ともいいかな?」
二人のおしゃべりとはしの動きが同時に止まった。二人とも「えっ」という顔を俺の方に向けている。俺はニッコリと笑ってみせた。「はい」と川原は覚悟した感じで返事をした。竹村は川原の顔を見てから、「松岡さんに任せます」と言った。俺は携帯で山沖を呼び出した。
山沖は息を切らしてやって来た。店員に案内されて俺の隣に座ると、目の前に川原がいるので驚いていた。お前のことが心配だから一緒に飲もうとしか言ってなかった。山沖は恥ずかしそうに川原から視線をそらすと、竹村がいるのにも気がついてまたびっくりしていた。
山沖が二度ドギマギしている間に山沖の生ジョッキを注文しておいた。川原を前にして落ち着きのない山沖に向かって、集まりの趣旨と呼び出した経緯について説明することにした。
「今日は、山沖救済作戦を立てる秘密会議なんだ。それで関係者が集まったという訳なんだけど、当事者がいないと行き詰まってしまってな。それで、呼び出したんだ」
山沖を落ち着かせるために、届いた生ジョッキを山沖に飲ませながら聞かせた。