2 そして二軒目……

櫻井氏の実家のあった団地の住民も、D工業が栄えた高度経済成長期頃、通勤に便利な環境だと思って移り住んできた住民たちがほとんどだった。

すぐ近くには、D工業へとつながるJRの路線が通っている。そのため、D工業が縮小されたのと同時に過疎化が進み、今では住民はほとんどいない。唯一の交通手段だったJRの路線も、減便を余儀なくされ、更に空き家が多くなったらしい。

あずみと真琴がその団地の火災現場に到着した時には、火事の後始末はほぼ終わっていた。それでもあたり一面には、火事現場特有の焦げたにおいが漂っている。現場保存のため立ち入り禁止テープが張ってあるところに、制服を着た警官が立っている。中では、私服の刑事たちも交じって調べているらしい。昨夜から降り続いていた雪はすでに止んでいたが、通路脇などに積もった雪をよける作業の人たちの姿もあった。

表通りから人が一人歩けるくらいの細い路地が続いている。この路地をしばらく行くと、道沿いに住宅が何軒か連なって建っていた。路地は住宅の中を少しカーブしている。今回火事があった家は、その路地を入ってすぐの一番手前の一軒だった。その全焼した住宅の隣は更地になっている。そこに櫻井家の実家が建っていたはずだ。

「この先に駐車場があるはずだから、そこに停めてくる。あずみは先に降りていて」

「うん。じゃあ、ここで待っているから」

真琴が戻ってくる間、あずみは表通りから警官の中に、義兄の姿がないか捜していた。啓介には余計なところに来るなと怒られそうだが、有力な情報はいち速く教えてもらえそうだ。警察組織にコネがある場合は、こういう時こそ有効に使わなければならない。

黒焦げの建物の中で、警官たちはしきりと出火の原因を調べていた。あずみはその中に、癖が強い髪質で白髪交じりの啓介を見つけた。もう少しで四十路をむかえようかという啓介だったが、髪はすでにかなりな割合で白髪が交じっている。啓介の髪型の特徴が、遠目に本人と見分けられたのは幸いだった。

「お待たせ!」

あずみは車を停めて戻ってきた真琴と一緒に、団地内へと続く路地を進んで行った。路地沿いの進行方向右手側に住宅が建っている。一番手前が今回火事のあった住宅だ。路地から見て、住宅の背後には裏山が見えた。路地に沿って進行方向左手側には、背の高さくらいの雑木林があり住宅はない。

あずみたちは見物人をかき分けて、一番前の列から火事のあった住宅を眺めてみた。まさに全焼である。ほとんど黒焦げになった建物の骨組みしか残っていない。

「パパのときも、こんなだったの。まるで家なんて残ってなかった……」

真琴の中で、ちょうど一か月前の記憶がよみがえってきたのだろう。

「困りますね。お嬢さんたち。そこも立ち入り禁止ですから」

櫻井家のあった更地側からなら見ても大丈夫だろうとふたりが櫻井家の敷地に入ろうとしたとき、制服を着た警官がふたりを制した。隣の敷地も立ち入り禁止だという。

「ここは、うちの敷地です!」

「そうは言われてもね。今はまだ取り調べの最中ですからね」

警官は真琴が反論したことに対して、決まりだから仕方がない、の一点張りだ。

「おいおい、どうした」