その時、警官の後ろから聞き覚えのある声がした。
「ん? おまえ! あずみじゃないか!」
「はぁい」
「芦原係長のお知り合いですか?」
見張りの警官も、これまでの野次馬と少し違うと察したのだろう。突然、丁寧な言葉遣いになった。
「うむ。この娘(こ)たちは、一応、事件の関係者だ」
確かに前回の火事の被害者の娘とその友達。大きく括(くく)れば事件の関係者には違いない。
「とりあえずここはいいから、きみはあちらを頼む。わたしは、この娘たちから話を聞いていく」
義理の妹にまでつきまとわれたと思われたくない啓介は、それらしく警官を遠ざけた。
「おまえ~。現場にまでやって来るこたぁ、ないだろう!」
警官が去っていったので、啓介も勢いづいてあずみに言った。
「だってお義兄様。今回の火事は前回の火事と関連性があるかもってニュースで言っていたわ。何か気付くことがあるかもしれないし、わざわざ真琴まで連れてきたのよ」
「ぐぅ、そうか」
こんなときに真琴をダシに使うのはよろしくないが、実際、真琴もそのつもりで現場についてきたのだ。それなら真琴ひとりで来ればいいじゃないか、という啓介の理屈はあずみには通用しない。啓介も、あずみに対していまいましい思いを感じながらも、改めて真琴に質問をした。
「ご覧の通り、今回の火事はお父さんのご実家の隣の住宅でした」
「はい」
真琴も殊勝な感じで答えている。
「お父さんのご実家と、隣の住宅とのつながりと言いますか、何かおつきあいのようなものはありましたか?」
「おつきあいですか……」
啓介はうなずいた。
「分かりません。私が物心ついたときから、すでにお隣さんは誰も住んでいる様子がありませんでした。だからつきあいと言っても何もなかったと思います」
「そうですか……」
空き家になったということは、住民が引っ越していったか、もしくは亡くなったかのどちらかということだろう。
放火の場合、怨恨か変質者などによる放火か、大きく分けてどちらかに分類されると、以前、啓介から聞いたことがある。数十年前に住んでいた住民に対して、今頃になって怨恨から放火に及ぶとはさすがに考えにくい。