1 はじまりの火事
「うん、そうだけど……」
「そうか」
啓介は、何かひっかかるような表情をしている。
「何か気になることでも? お義兄様?」
あずみも鋭さでは義兄に負けてはいない。
「うん、そうだな。ただ、少し気になることはある」
「なにが?」
「いや、うまく言えないんだが……。夫人が言った言葉なんだ」
啓介の中でも、それは明確な疑問の核心までいきついてはいなかった。目の前の霧を手探りで払っていくような、まだそんな状態だったのだ。ただ、夫人が発したある言葉には、何か違和感を覚えた。
「事件の再捜査は必要ないわ」
あくまで夫人は、「事故」ではなく「事件」と言った!
そして、櫻井夫人への疑惑が生まれた、まさにその晩のこと。
櫻井氏に関係する同じ場所で、またしても新たな火災が起こっていた―。