真琴は飛躍しすぎである。あずみは慌てて答えた。
「待って、待って! まだお父さんの火事も放火と決まったわけじゃないのよ。関連性があるかもしれないというだけで……」
科学的な鑑識の結果から言えば、前回の火事の事件性は薄い。今回の火事との関連性はあるのかもしれないが、あくまでそれはひとつの可能性で、火事が重なったのは単なる偶然かもしれないのだ。
「ねぇ、火事のあった場所にこれから行ってみない?」
真琴に提案してみる。
「もちろんよ。言われなくても、行ってみるつもりよ!」
やっぱり真琴のほうでも同じことを考えていたらしい。マイカーを持っている真琴の存在はとても心強い。タイヤもスタッドレスタイヤに替えたと言っていた。
「テレビなんかで、よく現場百遍って言うものね!」
真琴の口からとうとう警察用語まで出てきてしまった。実際、警察用語というものがあるのかどうか知らないが。ともかく現場は一度見ておきたい。
「初動捜査の基本は、やっぱり現場での聞き込みよね!」
完璧に刑事ドラマを見過ぎの真琴と、十分後に待ち合わせの約束をして、あずみは二件の火事があった現場へと向かった。
二件の火事があった住宅は、真琴が現在住んでいる高級住宅地から西へ二十キロほど行ったM市郊外で、隣の市とのちょうど市境の戸建ての集合団地だ。
ちょうど市境をまたいだ隣のD市では、「D工業」という大きな会社の化学工場が地元の経済を支えていた。
市内のほとんどがその会社の関連企業か、またはその会社と付き合いがある企業だったため、工業地帯としては、その大会社に丸抱えの状態だった。
しかし、そのD工業が羽振りのよかったころは、市の財政も潤っていたが、数年前から経営が傾き事業縮小を打ち出したため、工業地帯で栄えたD市の財政を圧迫し始めた。必然的に、従業員も減り市内から住民は去っていった。