他にもご来光を目指す客がたくさんいて、彼らの明かりのおこぼれをもらって登り続けた。頭上には、ちらほら星が輝いている。
チリーン、チリーンと、前を行く登山客の鈴の音が暗闇に響く。自分の呼吸の音と、耳元で少し鳴る風の音。山頂に向かう、色とりどりのヘッドライトの明かりの列。静かだ。
途中、ペースの遅い私は、明かりの列から離れてしまった。そのまま進んだが、どうも道がおかしい。こちらではないぞ、と少し焦って、もと来た道を戻り、なんとか登山道に帰った。
息を切らしてようやく着いた山頂は、たくさんの人で大賑わいだった。特に、山頂の山小屋の中は人でごった返していて、みんな肩を寄せ合って休憩したり、食事をしていた。
私はバイトの人を呼び止めて、
「蓬莱館から来ました」と告げた。ほどなくしてラーメンが運ばれてきた。明け方に食べるラーメンは、味は覚えていないが、温かさが嬉しかった。
太陽が昇り始めた。
登山客のおじさんたちが、おおー! と歓声を上げ、あちこちで万歳の声や拍手が響く。私は本当の山頂である、剣ヶ峰を目指して歩き出した。
しかし、風がものすごい。山小屋の前は、それほどでもなかったのに、お鉢巡りに入った途端、ものすごい暴風にあった。ほとんど台風である。なかなか前に進むことができない。あまりの暴風に、前を行く夫婦は座り込んでいる。
それでもなんとかお鉢を回り、剣ヶ峰に到着。
日本一の頂に立った。おお、日本一の高さに立ったぞ。嬉しさに顔がほころぶ。
富士の観測所も外から覗いて、少し下ると眼下にうっすら海が見えた。あれは駿河湾だったのだろうか。その海の上に、富士山の影が映っていた。
すごいところに来たんだなあ……。
私は素直に嬉しく、満足して小屋に下った。小屋では賢くんたちが私の登頂を祝って迎えてくれた。いよいよ小屋の皆とお別れである。