高校受験を控えた中学生向けの学習支援サイトには、「実技教科は『副教科』ともいわれます。『副』なんていう字がついていると、何だかほかの5教科(筆者注:国語・英語・社会・数学・理科)の方が大事な気がしてしまいます」という表現に続き、高校入試における「内申点」に影響を及ぼすことから、「あなどってはいけません」と書かれています7)。このことから、音楽科が教育現場において必ずしも重視されていない可能性があることが推察されます。

次の章からは、実践例に多めに取り上げながら、少しずつ具体的に述べていくことにします。

コラム

子どもの立場か学問の立場か〜その混在

平成元年の(第6次)学習指導要領では小学校低学年の理科と社会科が廃止され生活科が設置されました。ここには、小学校低学年の児童が発達段階的には思考や感情が未分化の段階にあることから、総合的な学びとして導入されたという経緯があります。成長とともに分化していく形で、上級学校に進むにしたがって内容も専門的に分かれていきます。

一方、音楽科の学習指導要領(第9次)上において、小学校では、各学年の〔共通事項〕に示す「音楽を形づくっている要素」について、「ア 音楽を特徴付けている要素」と「イ 音楽の仕組み」が分けられているのに対して、中学校では、それらがまとめて書かれています。すなわち、小学校で分析的に、中学校では音楽を丸ごと総合的に指導するように読むことができます。これらは、子どもの発達を視点にしているか、音楽の専門的な内容を視点にしているか、という違い(教育の在り方そのものが異なる)であると考えることもできます。


1) 奈須正裕『「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館出版社、2017、p.21.

2) 高浦勝義『総合学習の理論・実践・評価』黎明書房、2000、p.27.

3) 同上書、p.30.

4) 同上書、p.31.

5) 昭和22 年の学習指導要領の音楽科編は、戦後の音楽教育の方向を確定したものとして知られる。「音楽は本来芸術であるから、目的であって手段となり得るものではない。」「音楽教育が情操教育であるという意味は、音楽教育即情操教育ということで、音楽美の理解・感得が直ちに美的情操の養成となる。」という形で書かれている。

6) 髙倉弘光「音楽科の授業で育つ『心』とは?」『教育研究』75(5)、不昧堂出版、2020、p27.

7) 「油断大敵!実技教科の攻略法」『ベネッセ教育情報サイト』https://benesse.jp/kyouiku/201506/20150624-7.html[2020.9.24.10:47 閲覧]