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リセット
「ビタミン? どのビタミンがいいの?」
「よくわかんねえけど、とにかくビタミンだよ。髪の成長には、ビタミンがいいらしい」
「っていうと、やっぱりイチゴかミカンか」
「うなぎ、豚肉、レバー……それくらいか。わかんなかったら、サプリから摂れば?」
「サプリねぇ」
「そうだよ。ところで、どうして轢かれちゃったの?」
「それが、はっきりとは覚えていないんだけどさ。富良野でパーキングに車を停めて、トイレに行こうと思って道を渡ろうとしたら、轢かれちゃったらしいんだよね」
「轢いた奴は逃げなかったの?」
「それはなかったみたい。ちゃんと謝りにきたし」
「いくつくらいの相手?」
「僕と同じくらい。三十半ば。奥さんと子どももいてさ。なんかぼーっとした人でね。七十過ぎた両親が何度も頭を下げてるのに、本人は何も言わないの」
「ガツンと言ってやったか?」
「んにゃ、べつに。人を轢いたら、なんて言ったらいいのかわからないと思うよ、実際。何を言っても、言い訳にしか聞こえないだろうし」
「だめだよ。ガツンと言わないと、ガツンと」
「そうかぁ? まあ轢くほうでなく、轢かれたほうだったのが不幸中の幸いだね。こっちが撥(は)ねてたら大変だったよ」
「ふーん、そう」大林が素っ気なく答えた。「ところで、さっきナースステーションに、ものすごくかわいい看護婦さんがいたけど、名前わかるかな」
いきなりガラリと話題を変えやがった。こういう奴だ。
「どのナース?」
「なんか、おおらかな感じの子。すっげータイプだった」
「そう? こっちの女性はあったかいよ。つっけんどんな言い方をするけれど、とても親身になってくれる。僕の担当ナースもすげー感じいい。斉藤さんっていうんだけれど、今日は来ていない。もう結婚はしてるけどね」
「いいなー、毎日かわいい看護婦さんに囲まれていて」
「そう思うだろ」
「違うのか?」
「僕も事故に遭うまでは、そう思っていたよ。けれど、これが実際、寝たきりになってみると、そんなことはない。体は痛くてだるいし、ベッドにじっとしているだけで、デレデレしている余裕なんてねえよ。働いているほうが数倍マシだと思う」
「ふーん、そんなもんか。……まあ、お前が無事だとわかって、とりあえず安心した。また来られたら、見舞いに来るよ」
「ナースが目当てだな?」
「当たり前だろ」こういう奴だ。