髪で覆い隠された剃りこみのあたりにお湯が注がれた。光る無毛地帯が露わになる。
「お湯、熱くない?」
「ちょうどいいです。……ここ、薄いでしょ?」
僕は頭を伏せたまま、剃りこみのあたりを指で示した。彼女にはどうせ、まる見えなのだ。
「最近、また薄くなってきちゃった」
自嘲気味に笑うと、
「はーい、おわりー」
斉藤さんは聞こえていないフリをして湯を止め、タオルを出した。濡れた毛がぴったりと額にへばりついている。
「ブルース・ウィリスみたいにガタイがよければ、格好いいんだけどね」
「いいじゃないの、キューピーさんみたいで」
髪を拭きながら、斉藤さんが笑った。
「斉藤さんの頭を見ていると、高校時代を思い出すよ。これでも昔はフサフサの、寝グセだらけのホウキ頭だったんだ」
「わたしの頭、寝グセついてる?」
「そうじゃない。そうじゃなくて、僕が言いたいのは、あの頃は髪にボリュームがあって、前髪できっちりおでこが隠れていたってことなんだ」
「おでこ出しているほうが男らしいよ」
斉藤さんはそう言って、僕の両耳を引っぱった。