その際、音楽と理系領域(本書においては、理系領域とは、理科・技術2)・数学を指すことにします。これらは小学校においては、主に理科・図画工作・算数で扱われるものです)の合科的学習の試みを掲載していきます。

それは、教科等の枠を超えた教科横断的・総合的な学習であると同時に、探究的・協同的な学習を指向するものです。関心・意欲を重視した子どもの体験的で主体的な活動、各教科等で育成される能力が活用される活動を構想してみました。

なお、「教科横断的」という言葉に関しては、これが「総合的な学習の時間」を「わけのわからないもの」にしないための重要なキーワードであるということが指摘されています3)

すなわち、教科横断的に教師が単元をつくり込む時点で、それが「教科」の学習法になっており、子どもの立場からの学習ではなくなっているという矛盾があるわけです。

それを乗り越えていくには、単元を細分化せずに、子どもたちが「ひたる活動」を行えるように手助けすべきであるということが提案されています4)

そうしたことを念頭に置きつつ、私どもが考慮したのは、「いつ(・・)()役に立つかも(・・)しれないよ」という程度のことに、貴重な時間や脳の容量の大きな部分を割くような、必要性や充実感が認識できない(学習が終わっても、解放感はあるけれど達成感がない)、あるいは必要性を納得していない断片的な知識や技能を詰め込むのではなく、必要性や充実感を認識しながら活動できるようにすることです。

そうした活動を繰り返すことで汎用的な能力が培われますが、それは学校で意図的に育てることが望まれます。社会で何か新しいことが要請されるたびに、「新しい教育」が提唱され、そしていつの間にか忘れられる──むしろ、次々に「新しい教育」が出てくるので、また別の方向に目が向いてしまうことが繰り返されているのではないでしょうか。

「新しい○○教育」が登場するたびに、それを「そのまま」の形で学校現場にもち込むようなことには慎重であるべきと考えます。場合によっては効果的ではあるでしょうが、その提唱されたことが目的化してしまい、かえって視野を狭めるような展開もしばしばあったものと考えます5)


2)中学校においては、「技術」の時間数が激減しています(日本産業技術教育学会「『高等学校共通教科情報科の大学入学共通テストでの実施に関する提言』について」、2021、https://www.jste.jp/main/teigen/210201_teigen.html 2022.06.22、22:22 閲覧])。本書に掲載するような実践は、限られた時間においても総合的な広がりをもち、有効であると考えます。

3)冨澤美千子「総合的な学習の時間の矛盾と拡張可能性──教育目標達成のジレンマからの解放」山住勝広編著『拡張的学習とイノベーション──活動理論との対話──』ミネルヴァ書房、2022、p.61.

4)同上書、p.69.

5)同様に、STEAMも目的になってしまうことのないよう、きちんと手段(ツール)として位置付け、決して自己目的化せぬように留意することが大切であると考えます。