皆様の中には、『学習指導要領解説』を読む際には、いきなり自分に関係のある各教科の内容の部分に意識が行きがちな方も少なくないことと思われます。上掲のような部分は単なる前置きのように思えることもあるかもしれませんが、我が国が目指す教育の前提・基底を認識するためにも重要な文章であるといえます。

──ざっと読むと、この先「厳しい時代が来る」「どうなるか分からない」「このままでは持続不可能なのか」と思われるような、かなり衝撃的なことが書いてあります。それに対して「創造性が期待される」「人間らしさが重要」「みんなで協力して知識を再構成して有機的なものにしていくことが大切」という、人間らしさが重要であると書かれていると解釈することができます。

人工知能(AI)やロボットに取って代わられる(代わらせる)仕事や状況が増加する2)にしたがって、それらに対して人間として関わっていくためにも重要な、資質・能力の育成が第9次学習指導要領に掲げられました。

以上を大まかに整理すると、「これから先のどうなるか分からない世界をみんなで生き抜いていくための人間としての力を育成する」ことが、学校の学習・活動に求められているといえます。

教師を含めた、今の大人が経験して知っている筋道とは異なった世界が展開される可能性があると考えられることから、大人自身が教わったように教えるだけでは不十分、教わったようにしか教えられないという在り方では望ましくないことになります3)

大人も子どもたちとともに次の時代をつくっていく、というくらいの姿勢で授業に取り組む在り方が求められているといえます。


2)伊藤穰一『教養としてのテクノロジーAI、仮想通貨、ブロックチェーン』NHK出版、2018.に「AIが仕事のあらゆるところに導入され、人類が機械に置き換えられる時代が始まります(p.125.)」とある。このことは、ロボットのような人間を育てても仕方がなく、「ロボットを育てても意味がない(p.124.)」ということを意味する。

3)同上書、pp.125-126.では、「これまで義務教育が担ってきた役割は、産業革命後の初期であれば工場労働者を輩出するためであり、産業や軍事のために子どもを育てるという目的がありました。産業や軍事のなかに入って仕事をさせるには、誰もが同じ知識を持ち、グループの規律や服従を学ぶことが必要だったのです。

続けて登場したのが、いわゆる会社で働くホワイトカラーの養成です。日本のエリート教育は、一部は労働者を管理する人間に育てていますが、基本的には言われたことに疑問を持たず、なるべく皆と同じような思考を持つ『入れ替え可能なお利口さん』を育てるシステムです。

これまでの『労働』がAIやロボットに置き換えられ、国を超えた競争が激しくなる時代に、このようなシステムでは必要な人材が育ちません」と、明確に説明されている。