これらを踏まえると、学生にとって価値や意義を感じる授業や活動が望ましく、大学における学習に学生が目的をもっている(必要性を感じている)場合は役立つ授業を行うこと、目的をもっていない場合は楽しい授業・活動を提供することを考慮することが一つの指針になると考えられます。
これを参考にするならば、子どもたち自身が必要性を認識していることについては役立つように、そうでないことについては楽しい授業を行うという配慮をするとよいと考えられます。そして、実は「楽しさ」や問題が解決されていく喜びを伴った実感を得られることは極めて重要なことだからです(〈5-4-1〉で後述します)。
今を全力で、実感を強くもちながら活動することの重要性と関わっては、野球の鈴木一朗(イチロー)氏が行った、高校の野球部への指導にも関連が見られます。その指導には、練習量が過剰になると無意識のうちに力を加減してしまうことになるから、投球では「限界まで強い球を投げる」、打撃では「とにかく遠くに飛ばすように全力でバットを振れる」ようにしておく、という趣旨の内容がありました。
長時間の練習の終了時という、いわば「将来」まで体力がもつようにペース配分してしまい、今、眼前のボールに全力を込められない。これでは、負けられない試合という重圧の中でも力を発揮して結果を残すということはできないということになるわけです。
このことは、〈1-1〉で述べた、これから先のどうなるか分からない世界という、さながら負けられない試合と同様の重圧がかかってくる未来を生き抜いていくための力を育成する上で重視すべき点だと考えます。
楽しく、全力で、協働的に、創造性を発揮して……という「今」が、まさに未来にどんどん進入していっている瞬間であり、「今」の態度が、すなわちそのまま未来の姿であるということになるわけです。授業の終了時(すなわち開始時から見れば未来)には、そうした姿を実感的に振り返れるような授業をつくりたいと考えています。