「学習指導要領実施状況調査(平成24年度調査)」※6によると、「音楽の学習をすれば、ふだんの生活や社会に出て役立つ」という問いに対する答えが「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を合わせて半数弱、さらに「音楽等質問紙調査」(平成16年度「特定の課題に関する調査」と併せて実施。小学校第4~6学年)※7によれば、「音楽を学習すれば、私の好きな仕事につくことに役立つ」「音楽を学習すれば、私のふだんの生活や社会に出て役立つ」「将来、音楽の学習を生かした仕事をしたい」に対する「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」を合わせた回答が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を合わせた回答を上回る状況があり、〈はじめに〉で述べた通り、役に立つという感覚は子どもたちにとって薄いといえます。
しかし、同じ「音楽等質問紙調査」における「音楽を学習すれば、私は、明るく、楽しい生活ができるようになる」「音楽を学習すれば、私は、心がゆたかになる」との回答は過半数であり、およそ「役に立つ」という感覚とは異なった部分に対して子どもたちは意義を感じていることが読み取れます。そうしたことを踏まえると、やはり音楽の学習には意味があると考えられます。
なお、「心が豊か」とはどのような状態か、ということをすっきり説明するのはなかなか難しそうですが、私には、過去に受け持った小学校1年生とのやりとりの記憶が鮮明に残っています。「ねえ、心が豊かって、どんな状態かな? 『豊か』って、説明するの、難しいよね」と私が投げかけると、1年生のみんなは、次々に自由に発言しました。
児童:『ゆたか』って、お金が一杯あるってときに使うよ!
児童:うちのお父さん、体が『ゆたか』って言われてたよ!
児童:牛丼の大盛って、お肉が『ゆたか』だよ!
児童:『ゆたか』って、のんびりできるってこと!
児童:わかった! のんびりできるってことは、時間がたくさんあるってことだ!
児童:高い品物も、『ゆたか』だよ。
教師:『ゆたか』ってたくさんあるってことだから、心が豊かって、気持ちがたくさんあるってことかな。高いってことは、レベルが高いってことかな。
児童:高いってのも、多いことだよ。100円よりも1000円の方が数が多いよ。
児童:多いってのと、たくさんってのは同じだ。
児童:たくさん感じて、涙が出てくるとか。
教師:それって、色んなことを思ったからじゃない?
児童:同じことがあっても(筆者注:同じ出来事に遭遇しても)、たくさんのことを考えたり感じたりすることが『ゆたか』ってことか! ……いいことに使う場合が多いかも。
児童:想像することがたくさんあるとか!
児童:たくさんアイディアが思いつくとか! ……
子どもたちの言葉を聞いていて、なるほどと合点がいき、すっきりした感覚をもった記憶があります。つまり、例えばある楽曲を聴いて「感じ取る観点がたくさんある(多い)ほど」「くみ取れることがたくさんある(多い)ほど」「想像できることがたくさんある(多い)ほど」……ということだと整理できました。
それをもとに、十分な説明ではないのかもしれませんが、「豊か」ということについて、子どもたちに例を示すことができるようになったのです。大人の難しい言葉で説明するよりも、子どもたちの言葉を用いてひもときながら、教師も経験を積んでいくわけです。
※6 国立教育政策研究所「学習指導要領実施状況調査(平成24 年度調査)」http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h24/05.pdf[2016.2.22.13:42 閲覧]、p. 小音9.
※7 国立教育政策研究所「音楽等質問紙調査」(平成16年度「特定の課題に関する調査」と併せて実施。小学校第4~6学年)http://www.nier.go.jp/kaihatsu/ongakutou/04000461020007002.pdf[2016.2.22.13:50 閲覧]