心のなかの杭
荷物といっても、布団代わりの寝袋と、服と下着が二、三枚、タオル数枚、あとは作業着と安全靴一足が、俺の全財産だった。部屋に戻って、小一時間で荷物はまとまってしまった。
生まれてから十六年と少し、さしていい思いもしたことがなかった俺は、次に行こうとしているところに対しての期待も特になく、とりあえず野宿しないで済むことをラッキーと考えただけだった。
疲れてうたた寝してしまったのだろう。体を揺すぶられて起こされた。
「あ、すみません、お願いします」
最後まで言い終わらないうちに、男は外の車に乗るように、顎で促した。ここでなんの疑問も持たなかった俺は、つくづく幼稚だったのだ。
車の中で、話す言葉が見つからずに黙っていた。男からも言葉をかけられないまま、車はすっかり暗くなった郊外の道を走った。町を二つ分通り過ぎたあたりで、やっと車が止まると、今まで住んでいた会社の寮より、さらに古い木造住宅の前だった。
(俺はどこまで連れてこられたのだろう)
不安になったが、それより恐怖心がまさって、なにも肝心なことを尋ねられなかった。