エッセイ 『あなたがいたから』 【第15回】 坂本 りの 「分からない、何もかもが分からない」初めて見せた大粒の涙姿の夫。あの時抱きしめて慰めてあげられなかったことが今でも… 三月に入った頃には今まで少しはできていた事が、一つずつできなくなったのだ。大学病院のトイレも、なかなか出て来ないと「どうしたのだろう」と心配になった。男性トイレに入って行く事もできないし、出てくるとほっとしたものだ。この頃は歩行も、やっとという感じであった。又トイレの位置が分らなくなり、台所の流しに尿をしてしまったり、お風呂場、洗面所でしてしまったり、大変であった。病気が進み分からなくなっている…
小説 『アザレアに喝采を』 【第6回】 藤咲 えこ 「食べ物に支配されている」…自分でも気づき始めていた。普通のダイエットではなく「拒食症」という摂食障害であることに 手のかかる幼い子供がいる川田さんが、私たちを招いてもてなしてくれる。その手料理を残すことはいくらなんでもできないと初めから思っていた。せっかく久しぶりに集まった場の雰囲気を壊したくもなかった。「食べる」か「食べない」かは予め自分で作り出したルールによってしっかりと決められていて、予定以外のものを口にすることは決してなかった。「食べ物に支配されている」と栞は感じていた。カロリーや栄養成分などで食べ…