小説 『曽我兄弟より熱を込めて』 【最終回】 坂口 螢火 用意した死に装束を、我が子に着せる。まだこんなに小さいのに、斬首だなんて…私が身代わりになって死にたい! 青天の霹靂とは、まさにこのこと。聞いた母の驚きは尋常のものではない。「エ――エッ! 何と、何とおっしゃいます!」声さえ別人のごとく裏返って、「厭です! 厭です! 渡しません、断じて……」絶望的な悲鳴を上げ、曽我太郎に取りすがって泣きわめいた。その母の絶叫に驚いて、一萬と箱王が「母上! いかがなさいました」と座敷に駆け込んでくる。「オオ――一萬、箱王」母は無我夢中で二人を左右にかき抱くと、黒髪を振…
小説 『泥の中で咲け[文庫改訂版](人気連載ピックアップ)』 【第17回】 松谷 美善 「奥さん、この二年あまりで三千万円近くになりますよ。こんなになるまで気がつかなかったんですか?」と警官に呆れられたが… 【前回の記事を読む】いつの間にか異性に対する感情になっていた彼から「今月、あと二十万あれば、僕ノルマクリアなんです」とお金を無心され…。なんとなく予感がしていたので、言われたことには驚かなかった。家の中に入って、彼に直してもらった箇所、さまざまなことを手伝ってもらって、いくら支払ったか、細部に至るまで尋ねられた。最後のほうは警官はあきれ顔で、それでも内訳を聞き取った。「奥さん、この二年あまりで三…