思い出す度に小さなとげが疼くような記憶がある。製造業の経理課で働いていた頃だった。営業部の林君が「お母さん、お金ちょうだい」などとおどけた様子で、出金伝票を持ってやってきた。こちらもつい気を許して「奥様、お元気?」などと言いながらお金を渡したのである。彼は急に表情を強張らせ「あっ、はい……」と返事を濁して戻っていった。彼を見送って、若い女性の同僚がさらっと言った。「あの二人、離婚したんですよ」ド…
エッセイ
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