外へ戻ろうとした時、「見付けた」と言いながら、ゲンタ、リュウト、ショウの男子三人が入ってきた。ショウもリュウトもゲンタと一緒になって、はるなの口まねをしたり、理解不能な方言でからかったりしてきた男子たちだ。時々、乱暴者になる。女子四人が洞窟の奥へと押し戻されたようになった。
「ここは女子の陣地じゃ。男子は来るな」
「誰が来たって勝手だろう」
「男子、好かんタレ、帰れ」
「そうよ。男子、帰れ」
「べー。ばぁか」
ゲンタが言って、手を振り上げた。
「痛っ」
振り上げた手を天井にぶつけてしまった。
「どれ、見せてみ」
ちさがゲンタの手を見ようと立ち上がった拍子に頭をぶつけてしまった。ショウがゲンタの手とちさの頭を撫でて確かめ、
「大丈夫。二人とも血は出とらん」
と言った。
「狭すぎてけんかにもならんわ」
リュウトがぽつりと独り言を言う。
「あっ、カンテラ」
はるなが小さく言った。確かに先ほどまで持っていたはずのカンテラがなくなっている。帰ろうと、入り口近くまで行った時には確かに持っていたはずのカンテラが、今はない。どこにも灯りが見えない。ということは、どこかに落として、その弾みで壊れたか、スイッチが切れてしまったのだ。
その時、地面がぐらぐらと揺れた。
「地震!」
口々に叫び、慌てて外へ出ようとしたが、洞窟の中から白い煙が立ち上ってきて、何も見えなくなった。はるなは足がすくんで動けず、全員が白煙に飲み込まれてしまった。息ができないというのではないが、砂に塗まみれたようなほこり臭い匂いがする。そして、煙が少し収まってくると岩の壁の中を赤い筋がするすると上ってきた。ふと洞窟の奥に人影を感じた。
「山田さんのおじさん?」
はるなは尋ねた。
「だれだ?」
と声が返ってきた。しゃがれた声だった。ドキッとしてはるなは声のする方を見た。まだ収まりきらない煙の向こうに男が一人いる。筋骨たくましいゴリラのような大男に見える。はるなは体中が心臓になって、早鐘のように脈を打ち出した気がした。男の前には小さな皿の中で炎が赤く揺らめいていて、岩肌を照らしている。暗く赤い光に揺らめく男の顔は、悪鬼のようにも見えた。
しばらくすると煙はほぼ収まり、男の姿が見えてきた。麻布のようなものを腰に巻いただけの、ほぼ裸に近い男が、顔だけを子供たちの方に向けている。炎の光を映して目だけが異様にキラキラとし、顔の光が当たった部分が赤く浮かび上がっている。炎が揺れる度に男の顔の形が変化して、鬼のようになったり、幽霊のようになったりする。
男は握りこぶしの倍ほどもある石杵を手に、壁に向かって座っていた。汗と岩の粉塵に塗れて、人というよりは野獣のようだった。小さな皿の中の炎の揺らめきが、子供たちの顔も赤黒く浮かび上がらせた。