もうひとつの村

市には魚、服地、食器の店もある。服地はほぼ麻のようだ。堅くてゴツゴツした感じのものから、細く柔らかくした糸で細心の注意を払って織られたようなものまでいろいろだ。

生地にする前の生成りの糸のかせも売られているし、一方で、彩色されたり、模様の描かれた生地もある。木や花の染液で色を付けていると洞窟の男が説明した。

ここで売られている食器は、先ほど餅をのせてきた皿と同じく、釉薬(ゆうやく)のかからない素焼き陶器だが、大きさや形はいろいろある。線で簡単な模様を付けた酒杯(しゅはい)、高台の付いた皿、(ふか)(ばち)などもあり、中には底が三角形にとがった鍋のようなものもある。

「安定が悪そうね。テーブルにも乗らないわ」

はるながその形を心配した。野菜を売っている店もある。ただ、はるなには見慣れない野菜ばかりだ。ただでさえ、野菜というものがよく分からない。

引っ越してきてから、畑に生えている野菜を見るようになったが、今まではパックに入れられ、スーパーの棚に並べられた野菜しか見たことがなかった。これがニンジンだと言われても、スーパーの棚のそれと目の前の畑の葉っぱがつながらない。地面の上と下とで何がどうなっているのか、とんと見当がつかない。葉っぱだけ見てニンジンだと分かる人は偉いと思う。

キャベツもスーパーで売られている部分以外にそと葉があって、そちらの方がずっと存在感があるから、畑を見てもキャベツとは思えない。しかし、ここには根本的にはるなが見たことのない野菜がたくさんある。名前など全く想像もつかない。「訳、分からん」と言ったら、リュウトとさゆりも、「訳、分からん」と言ったので、思わず顔を見合わせ吹きだした。