【前回の記事を読む】【小説】暗い洞窟の奥にいた、悪鬼のような男の正体とは…
なぞの男
七人は目の前の男を恐る恐る見た。怖くて、見たくない物ほどしっかりと見てしまう。見たくはないのに男の顔に吸い寄せられてしまう。はるなは男の手に握られた石杵に目をこらした。さっきみやが見つけたつるつるの石と同じだ。あれで殴りかかられたら自分たちはひとたまりもないだろう。
今度は見知らぬ男に対する恐怖が襲ってきた。身体が動かない。不思議な静寂の時間が流れた。ただ、皿の中の炎が右へ左へと流れ、その度に男の顔が鬼のようにも、幽霊のようにも変化するばかりだ。
はるなはそっと天井を見た。ここの天井は低い。今いるここははるなも、ちゃんと立つことができない。入り口あたりはさらに天井が低く、子供の自分たちですら、四つん這いになってはいはいをするしかなかった。男が自分たちに向かって力一杯腕を振り回し、石杵で殴りかかってくることは不可能だ。どう考えても、小柄な分、自分たちの方が有利だ。少し冷静さを取り戻し、男の顔を見返した。
「おじさん、誰?」
他の子供たちも落ち着きを取り戻し、声が出せるようになって、一気に質問を浴びせかける。
「こんな所で何しているの?」
「壁に向かって何しているの?」
白煙は完全に収まり、湿気を帯びて冷たく、ほこり臭くてよどんだ空気が鼻の奥まで充満してきた。
「何で普通の服を着ていないの?」
「何で懐中電灯を持ってこないの」
子供たちに矢継ぎ早に質問され、男はいかにも困ったような表情をした。野獣と見えた男の意外に優しそうな目に、はるな達は落ち着きを取り戻した。野獣のように怖そうに見えたその男は、よく見れば、大男ではなく、むしろ、細くて背の低い男だ。
「しゅをほっている。あとでしゅだけをとりだす」
「しゅをとりだす」
ということが分かるのははるなだけで、あとの六人には解説が必要だった。男の助けを借りながら、はるなが山田から聞いたことをできるだけ正確に教えた。
「この赤い色が命を表しているのよ」と、先ほどの地震でするすると登ってきた赤い筋を指さした。
「ただの赤い筋じゃん」
ゲンタが言う。
「んーん、えーっと」
男が助け船を出した。
「あかいいろ、いのちのいろ。いのちのいろとうまれかわりのいろ」
「何で生まれ変わりが必要なのさ。おじさん、生きているのに」
「わたし、うまれかわり、のぞまない。でも、王さまやきぞく、のぞむ。とみとちからのつぎ、えいえんのいのち。王さまにいのちをあげる」
「へんなの。人間は永遠には生きられないよ。誰でも皆いずれは死ぬんだ。あたりまえでしょ」
「混ぜっ返さないで。ちゃんと説明を聞いて。人の話はきちんと聞きなさいよ」
と、はるなが怒る。
「どえらそげに!」
とゲンタが言い、ちさが、気の荒い犬を撫なでてなだめるように、なだめて黙らせた。男は続けた。