【前回の記事を読む】「わたし、うまれかわりのぞまない。王さまにいのちをあげる」
なぞの男
ゲンタの左手の石の先端を自分が探り当てたポイントに置かせた。そして、右手に別の大きな石杵を持たせて、左手の石杵の頭を叩くようにと言った。ゲンタは自分の手を叩いてしまうのではと、恐る恐る叩いた。壁はびくともしなかった。ちさが自分の軍手をゲンタにさせた。
「もうすこし、つよく」
見ているはるな達も手を握りしめ、身を乗り出し、息を詰めて見守った。
「もうすこし」
男はゲンタの左手を少し斜め上に向け直すよう、促した。何回も左手の石の場所をずらし、角度を微調整した。
「つよく」
「そうそう、そこで、ちから、ためて。ガンと」
右手の石で打ち付けるうち、ゲンタにも男が言う『とくべつなしかた』の意味がなんとなく分かってきた。そして、石と石がぶつかる瞬間に力が爆発するような叩き方を数回したら、テニスボールぐらいの石がポコッと欠け落ちた。
皆がほーっと大きく息をした。息をするのを忘れていたことに気がついた。炎が揺らめいて、ゲンタの顔を照らした。喜びに満ち、目がキラキラと輝いていた。石を拾い上げ、右手でぎゅっと握り、その手を胸の前に掲げて、ガッツポーズをした。
「やったぁ」
ゲンタは大声を出した。ショウとリュウトも歓声を上げた。さゆりが、「見せて」とゲンタの手元をのぞき込んだ。
「やったね」
「すごぉい」
七人は口々に言いながら、手に取って飽きもせず眺めた。皿の油の揺れる火が七つの興奮した顔を浮かび上がらせた。男は、
「おまえのものだ」
そう言って、その石をゲンタに持たせた。