小屋の中の男と女
大家さんの家に着くと、大家さんは、「あ、お品ちゃん、どうしたかね」と言う。この女は品というのだろう。
お品は、これまでのいきさつをかいつまんで、大家に話した。
「そりゃおかしい」
大家は、お品に強く言う。
「確かにかんざしと小判は交換条件だった。貸した借りたと言う話はない。どこで、間違ったのだろう」
「あの男が都合のいいことを言っただけかもしれない」
「でもそれなら、はっきりとお金の貸し借りはない、と言わなければ」
麻衣は、あの男が交換条件をもみつぶして、自分のいいように言ったのだ、と思った。あの男に、言わなくては……。
今度は、お品は意を決して談判に行った。
「お金は、交換条件ですから、ありません」
小屋には、男がいなかったので、小屋の責任者に談判した。
「さいですか? わたしにはよく分りません。あの男に言ってください」
小屋の責任者は、そういって話を終わった。あの男がいるのは、この先の小さな一軒屋に住んでいる、と言うのだ。
それで、また歩いて、その一軒屋に行く。
小さな家だと言ったが、見かけは小さな家だが、中は広そうだった。潜り戸は、きちんとしまって、中から鍵がかかっているようだ。何回か戸を叩くと、中から男が出てきた。崩れた感じのやくざのような男だった。
「主人に会いたいのですが……」
男は、お品をじろじろ見ていたが、かすかに笑い、「待っていてくださいよ」と言い奥に入って行った。
お品は、じっと立っている。ほどなく男がまた出て来て、言う。
「さ、どうぞ!」
お品は、麻衣を見つめた。麻衣は頷く。お品は男の後について入って行く。麻衣も入って行こうとしたら、「お一人だけでさぁ」と男が麻衣を突き飛ばそうとする。
「あら、わたしも一緒じゃなくては……」
「あんたは、何ですかい?」
男は向き直る。
「わたしは、お品さんの姉ですよ。大事な妹を一人でやるわけにはまいりません」
麻衣は言った。
男はじっと麻衣を見ていたが、ふっと笑う。
「ま、いいだろう、娘が二人だもんね」
と道を開けた。