小屋の中の男と女
林太郎は、下を向いたまま、出ましょう、とばかり言っている。
男の手が女の肌に食い込んだ。女はヒッと短い声を上げているように見える。麻衣は動かなかった。なぜこんな場面を見せるのだろうか?
女は嫌がっているように見える。
すると、男の手はさらに、女の胸を掴んだ。女は体を反り返した。やめて!というように反ったのだ。男はその手を今度は、下に伸ばしていく。麻衣は固唾をのんで見守っている。後ろを向くと、みんな真剣に見ているのだった。
男の手は、更に下に伸びて、女は体を動かしては、嫌!というようにあえいでいる。麻衣は男の手を掴んだ。
「やめなよ、おっさん」
「何?」
男は振り向いた。
「何をしやがるんだ!」
「女が嫌がっているじゃないの」
「これは演技だ、放っといてもらおうか?」
「演技じゃないわ!」
麻衣はその柵の中に入って行った。男の手を振りほどき、女から離した。女のさる轡を外した。女はさっと着ていた着物を前につけた。
「すみません……」
女は言う。
「演技だ、こっちに来い!」
「嫌です。帰ります」
女は言うと、着物をひっかけて飛び出した。男は後を追うと、これまた走り出したのだ。麻衣も走る。捨ててはおけない。店を出たところで、男と女がもみ合っていた。
「何をなさるんですか? もう止めて下さい」
「まだだ。お前のお金は、まだ残っている!」
「知りませんよ、離してください」
「離すもんか!」
男は、女の首を掴んで、引き返そうとしている。
「嫌です!」
男は、女の体を両手に抱えると、木戸の方に引っ張って行く。
「待ちなさい!」
麻衣は言った。
「女の人が嫌がっているでしょう。離して上げなさい」
と言うが早いか、男のみぞ落ちに一撃を食らわした。男はもんどりうって転がった。女は着物の裾を気にしながら、走った。