「お母さん、そんなことを言っちゃダメ」

娘は、母親に取りすがって泣いている。

「お母さん、お金借りたの?」

しばらくたって、娘は聞いた。

「いえ……」

「お金のことは、きちんとしていなくちゃ」

「…………」

「お母さん!」

「ごめんよ。お金は……お金は、まだここにある。使っていないよ」

と言い、敷布団をめくる。そこには、古布で包んだ一両小判があった。

「これ、返してくるわ」

「ごめん、わたしが死んだあと、お前に、と思って隠していたんだよ。でも返さなくていいの。これはわたしのかんざしと交換なのだから……」

「え、交換?」

「そうだよ、交換……」

母親はきっぱり言った。

「おかしいわね、お金を貸したと言っていた……」

「本当だよ、交換なのだから」

「…………」

「交換なのだったら、あの男の言い分はおかしいね」

麻衣は言った。

「そうだな、きちんとしなくては……」

林太郎も眉を曇らせる。

「わたしが、話したのは大家さんだよ」

母親は、ゆっくりと言う。もう言いたくないようだ。娘は、

「それなら、今から大家さんに聞いてくる」

と言い、家を飛び出した。