俳句・短歌 短歌 故郷 2022.03.10 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第96回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 子雀が羽を振るわせ餌ねだる 微笑ましき親子の絆 陸と海分かれた時を思わせる 太古の雲か梅雨の空浮く 世界杯心熱くし熱帯化 サッカー嵐過熱かねつして燃ゆ
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『北満のシリウス』 【第14回】 鎌田 一正 1945年8月7日、満州ハルビン。喫茶店で話す日本人家族。「悪い人なの?」「日本人側から見て悪者になったってことでしょう?」 「え~と! どれにしようかな?」そう言いながら、ナツがふと見上げると、ガラスケースの向こうでは、店員の美しいロシア人少女が、ニコニコしながら、こちらを見て注文を待っている。でも、ハルは、そんなことはどうでもいいようだ。「私は、これと、これと、それと、あれと」「お姉ちゃん、そんなに一人で食べちゃうの~?」「皆で食べて、食べ切れなかったら、持って帰ればいいのよ」「フユは、自分で選びたい」「僕もだよ」…