俳句・短歌 短歌 故郷 2022.03.03 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第95回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 間近でも出逢い待つ身の切なさに恋しさ募り涙を拭う 頬寄せる三人覆う愛翼悲しみのない青空の中 雲破り太陽溢るる強さ哉万照らして我も照らされ
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『魂業石』 【第12回】 内海 七綺 「子供はまだか」…? 手のかかる異分子は当面、必要ない。夫も義父母も、どうしてそんなに子供を欲しがるのだろう。 六月にしてはからりと晴れた水色の空に、ピンポンパンポンと間の抜けた音が鳴り響く。開け放たれた窓から爽やかな風とともに飛び込んできた声は独特のハウリングがかかっていて、こんなに静かな真昼だというのにほとんど聞き取れない。それから五分を待たず、支所の電話が一斉に鳴りだした。「はい。飛熊市緋桜支所住民課の真田でございます」「おいお前、何時だと思ってんだよ。朝の十一時だぞ」溜息を飲み込み受話器を上げると…