俳句・短歌 短歌 故郷 2022.03.03 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第95回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 間近でも出逢い待つ身の切なさに恋しさ募り涙を拭う 頬寄せる三人覆う愛翼悲しみのない青空の中 雲破り太陽溢るる強さ哉万照らして我も照らされ
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『維新京都 医学事始』 【第22回】 山崎 悠人 その産科医は、母子の死を覚悟した。死産児を取り出すことも諦めて…。―緊急の往診で到着すると、消耗しきった妊婦が… それらの遊びでは、負けた方が酒を飲むという決まりがあったが、最年長でヨンケルと同じ四十四歳の山本覚馬は加わらず、一人静かに酒を楽しんでいた。宴はしだいに、大盛り上がりとなっていった。万条と安妙寺は座敷の隅で、そんな大人たちの遊びを遠慮気味に見守った。何もかも初体験で、さすがにその輪には入れなかったのだ。一方、ヨンケルは芸妓や舞妓の白塗りの顔と、その華やかな衣装に興味津々の様子だった。酔いも手伝い…