俳句・短歌 短歌 故郷 2022.12.10 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【最終回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 蝉が鳴く寸暇を惜しむ一時の 晩夏に響くミーンミンミン 今日の日は今日に始まり今日終わる 明日と言う日は明日やって来る 猛暑也酷暑復活残暑哉 微も揺るがない夏の将軍
小説 『ツワブキの咲く場所』 【第3回】 雨宮 福一 「お母さん!」男から私を奪い返しその場から離れるのに必死な母。男たちは女の子を連れて草むらの間へと見えなくなり… 夢と思いたくなるような、凄惨な光景である。私の視界はとめどなく流れる涙でぐしゃぐしゃになり、もはや女の子の表情を識別することもかなわない。アパートから母が飛び出してきた。奇妙なことに、表の騒ぎに今ようやく気付いたらしい。「涼? どこ、どこにいるの!」母がそう呼ばわったけれど、私の姿は大きな草の陰に隠れて見えない。母の目にはむろん留まらず、立て続けに私の名を呼ぶ声がする。「お母さん!」私が叫び返す…
小説 『浜椿の咲く町[人気連載ピックアップ]』 【第25回】 行久 彬 捨てられたくない…その一心で言われるままに彫った背中の「悲母観音」 沙耶は、次の休みの日から彫り師の看板を探して歩いた。地元の伊勢や松阪では気が引け、名古屋まで出越して探した。沙耶が選んだ店は、機械彫りではなく和彫りと称する手彫りを施す店だった。「お前ェさん、まだお若いが、覚悟はおありなさるのかい? 消えねェんだよ入れ墨は。こちとら彫るのは商売だが、後々恨まれたくないのでね」彫り師はそう言ってしつこいぐらいに沙耶に念を押した。彫り師は彫るかどうか沙耶の意志の確認…