俳句・短歌 短歌 故郷 2022.12.10 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【最終回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 蝉が鳴く寸暇を惜しむ一時の 晩夏に響くミーンミンミン 今日の日は今日に始まり今日終わる 明日と言う日は明日やって来る 猛暑也酷暑復活残暑哉 微も揺るがない夏の将軍
小説 『毎度、天国飯店です』 【第6回】 竹村 和貢 サークル勧誘チラシの前で、『徒然草』を抱えた美人と出会った…。 天国飯店の定休日は毎週火曜日。アルバイト生四人で、月曜から土曜の間の五営業日を分担する。四人のうち誰か一人が二営業日に入る。その者以外の三人のうちの一人が日曜日に店に入る。日曜日は大学が休みなので、朝の十時から閉店の午後九時まで十一時間店に入ることになる。「ほな、俺、明日もバイトやさかい、おっちゃんに自分のこと話してみるわ。多分、おっちゃんも構へん言わはる思うねんけど」夏生は、「できない」とは思…
小説 『カトリーヌと囁き森』 【第16回】 智佳子 サガン 六十年前に姿を消した兄を探し続けた妹からの手紙に返事を出せない理由は… ドミニクからの手紙をカトリーヌに読んでもらっている間、ワルツさんは無言で闇の一点を見つめていた。読み終わったカトリーヌは手紙の余白をじっと見つめて動かなかった。やがて「雪になりそうだ」とひとこと言いおいて、ワルツさんは深い緑の扉を押して出ていった。ドミニクからのあとの二通の手紙は返事をくれないことに対しての失望に満ちていた。雪は朝までやむことがなかった。 リュシアン、あの鳥はもう二度と戻ってくる…