【前回の記事を読む】延命治療を拒否した母…救急病棟に駆けつけると、うっすら目を開け「まだ死にたくない」と言った。

サイコ3――奇跡の手

麻利衣は賽子の体を放し、小百合に向き合った。

「お母さん……」

「私の病気はすっかり良くなったわ。賽子さんが治してくれたの。体ではなく、心の病を」

「心の病……」

「私って本当に馬鹿ね。お医者さんの忠告を無視してこうなったくせに、インチキな心霊療法に大金を騙し取られた挙句、副作用でこんな苦しい死に方をするなんて。もう死んでもいいなんて虚勢を張ってたくせに、いざ死を目の前にすると、どうしても死にたくないと生にしがみつこうとしてパニックになってた。

さっき、賽子さんに手を握られた時、自分の愚かさにやっと気づかされたの。これが私の運命なのよ。今は全てを受け入れている。本当に清々しい気分よ。心配させてごめんね。麻利衣」

小百合は冷静な口調で語った。

「賽子さん、私はあなたのことを夫を騙した嘘つきだと思ってずっと恨んでいました。でも、それは間違っていた。あなたは本当に素晴らしい人。本物の超能力者よ。これからも麻利衣のことをよろしくお願いします」

小百合は再び麻利衣に視線を合わせた。

「麻利衣、あなたにはつらい思いばかりさせて悪かったわね。でも、お母さんはお父さんと、あなたと出会えて本当に幸せだった。これからつらいことがあっても、私たちのことを思い出して。きっとあなたもいつか本当の幸せを手に入れられるはずよ。元気でね、麻利衣……」

小百合が目を閉じると、涙が零れ落ち枕を濡らした。血圧が低下し、ベッドサイドモニターが警告音を鳴らし始めた。

「お母さん……お母さん! 死なないで! 嫌だ、こんなの。賽子さん、助けてください。どうか、どうか母を」

麻利衣は賽子にしがみついたが、彼女は一言も語らなかった。麻利衣はベッド柵にしがみつきながら泣き崩れた。その時、廊下で待機していたはずの鍬下が病室に慌てて入って来た。

「那花小百合さんですね。こんな時に申し訳ないが、どうしてもあなたに訊きたいことがある。古葉月渚という人物をご存じないですか?」

小百合はわずかに瞼を上げ、弱々しく左手を上げて、賽子の方を指差した。しかし次の瞬間、彼女の左手は力を失い、ベッド脇に落ちた。心電図がフラットになり、モニターがけたたましくアラームを鳴らした。

「お母さん? お母さん! 死んじゃやだ。美瑛に帰るんでしょ。わああ」

麻利衣は母の体にしがみつき、号泣し続けた。他の者たちはその場に凍りついたように立ち尽くすほかなかった。