葬儀屋が病院に到着するまでの間に賽子は時間外窓口から駐車場に出てタクシーで事務所に帰ろうとしていた。後ろから麻利衣が跡を追ってきた。
「賽子さん」
彼女は後ろを振り返った。
「まだ何か用か」
「いえ。さっきは取り乱して申し訳ありませんでした。母のこと、お世話になりました」
麻利衣は深々と頭を下げた。
「考えてみれば、超能力で病気を治してもらおうなんてほんとに馬鹿げていますよね。母のことを笑えません。もし、賽子さんにそんな力があるとして、病気を治してもらったとしても、次いつまた新たな病気や怪我で死の危険に晒されるか分からない。
結局、人生には自ずと限界がある。頭では分かっていても、心では分からずに、生に執着することが自分自身を苦しめていたんですね。賽子さんのお陰でそれがよく分かりました。本当にありがとうございました」
麻利衣は再び頭を下げた。賽子はそれをじろりと一瞥すると再び背を向けて歩き出したが、数歩進むと突然足を止め、再び半身だけ振り返り言った。
「悟ったようなことを言っているようだが、おまえが執着しているのは生だけか?」
「え?」
「むしろ人間にとって、生をないがしろにするほど執着するものの方がよほど恐ろしいのだ。おまえにはまだそれが分かっていない」
「何のことを言ってるんですか?」
「いずれ分かる。ところで、しばらくおまえはただ働きだ。家賃滞納で今の部屋を追い出されたら困るだろう。喪が明けたら私のマンションに引っ越せ。おまえが暮らすくらいの部屋はある」
「えっ、いいんですか? あっ、でも、賽子さんと同居はちょっと……」
「私だって、おまえなんかと同居はしたくないが、やむを得ないだろ。それとも公園の段ボールハウスからでも通うつもりか?」
「いえ、お願いします」
賽子がタクシーに乗り込んで走り去るのを麻利衣はしばらく見送っていた。
「サイコ3――奇跡の手」終わり。「サイコ4――人体発火」に続く。
次回更新は3月11日(水)、21時の予定です。