劇症型地球温暖化の未来シナリオ
個別の地域ごとの予測では、
「まずアメリカ合衆国だ。カリフォルニア中央部のセントラルバレーは、シエラネバダ山脈とロッキー山脈をおおう雪が解けてしまったことで、かつては夏場の給水を担っていた河川が水量不足に陥り、農業は実質的に消滅している。
南西部の主要都市は、劇的かつ永続的な水不足に直面している。ミシシッピー川以西のハイプレーンズは降雨量が急速に減少したため、巨大な『オガララ帯水層』から汲みあげる灌漑用水への依存がいっそう高まり、地下水の枯渇時期がさらに早まることになる。
南東部の諸州は悪天候に常時見舞われるようになる。沿岸地帯にくらす人々は、連邦政府が住民保護のために展開する公共事業によって当初は恩恵を受けるものの、そうした試みはやがて失敗に終わる。
力ずくの土木工事で自然に抵抗するという考えは、いずれ戦略的後退へと道を譲り、アメリカは、アメリカの最も貴重な資源を守るため、それに合わせた退却戦を戦うことになる。
状況を依然として楽観し、しだいに脆弱性を強めつつある沿岸部から、資産と住民を漸進的に再配置したいと願うものもいるだろう。だが、状況があるところまで進むと、突如として過疎化現象が出現するかもしれない。
そうした重圧にさらされた場合、アメリカの連邦制度は弱体化を始める。現行の人的、物的資産はこの任務に向いていないとの理由から、連邦政府は、持続的かつ多発的な災害に対処する重荷を、各州政府に肩代わりさせようとするだろう。」
と記しています。
メキシコや中米、カリブ海諸国については、
「旱魃(かんばつ)がもはや常態化し、気候変動がもたらす結果ははるかに深刻なものとなり、アメリカとの国境に大きな圧力がかかってくる。国境では、問題が制御可能なレベルを超えて広がり、劇的な手法以外は役立たず、それもこの時期までくると、そうした手法の適用はおそらく無理だろう。なんとか不法移民を抑えようとする取り組みは、合衆国内部の社会的、政治的構造にしだいに不和の波紋を投げかけることになろう。」
カナダについては、
「アメリカとカナダの亀裂も高まっていく。太平洋岸、大西洋岸の漁業権や、水源(アメリカが気候変動の悪影響を穴埋めするため、カナダがその3分の2を依存している五大湖から、これまで以上に水を引こうとした場合は特にそう)、そして海氷の消失という新たな事態がもたらす北極海の通航権や地下資源の帰属問題が、米加両国の紛争の種になる。(以下略)」
ラテンアメリカでは、
「猛烈な気候変動が民主政府に引導をわたし、チャベス(反米的言動で鳴らしたベネズエラ大統領)的な政権の拡散を招く。広大な地域が基本的に無法地帯と化し、あるいは犯罪カルテルの支配下に入る。
秩序回復に向けた現地当局の取り組みを支援する手段がないため、アメリカは各種政策を組み合わせて、無秩序の蔓延を防ぐ強制隔離的手段に頼ることになろう。