初陣を勝利で飾ったレイジングだったが、どこかが壊れてしまったかのように、その目線は常にどこか遠くにあった。元々の人懐っこさが故に、女たちは彼に群がったが、レイジングはそれを全て受け入れた。

さまざまな女がいた。年上、寡婦、他部族、混血、人妻。中でも、ある年下の女からは大層慕われたけれど、レイジングの心は凍りついたままであった。年下の女は、心ないレイジングと共にいる寂しさを埋めることができず自ら命を絶ち、それを知った彼は天を仰いだ。レイジングは酷く後悔したけれど、後の祭りであった。

それからも女を求め続け、飽きては捨てることを繰り返していた。喘ぐ女たちを見ながら、嘆息するのが常で、幾ら射精してもどこか虚しかった。怪しげな不良白人の酒場に出入りし、闇で仕入れたウイスキーを朝からあおり、酒臭い息を振りまいた。吸えないタバコを吹かし、部族の若者たちに喧嘩を売ることもあったが、幾ら打ちのめしても、心はひたすらに空虚で、父を喪った悲しみは癒えなかった。

レイジングを見かねた祖父、ブレイブ・ウルフは言った。

「お前が優れた戦士であることは、部族全員が知っている。だが、今のお前は、酒と女に溺れ、仲間に喧嘩を売り、落馬さえする、どうしようもない人間のクズだ。言い訳はいらん。明朝、誰も見ないうちにここを出て行け」

決して祖父に逆らったことのないレイジングは、ぽろりと涙をこぼし、言った。

「偉大なる祖父、ブレイブ・ウルフよ。俺は間違っていたことに今、気づいた。いや、()うにわかっていたのだろう。ただ、自分の失敗で父を喪ったことを認めたくなかっただけだ。部族の女たちや仲間たちに迷惑をかけたことは重々わかっている。朝とは言わず、今すぐにここを出て行く」

「お前の苦しみはわかるつもりだ、レイジング・ウルフよ。私もかつて、戦場で友を亡くし、酒と女に溺れたことがある。人生は苦しみと落胆の連続だ。だが、それを乗り越えてこそ、人は人になれるのだ。

さあ行け。お前が人となれたと判断できるまで、この集落を訪れてはならん。そして、お前に新しい名を授けよう。レイジングには荒れ狂うという意味がある。戦士には相応しいが、人の名ではない。これからは、ライジング・ウルフ、すなわち、立ち上がる狼と名乗れ。その新たな名に恥じぬよう、精進せよ」

涙をぬぐったライジングは、すぐに身支度を整えた。そして、祖父のブレイブを抱き締め、後ろを振り返らず、愛馬に乗るやいなや、生まれ故郷を後にした。