集いし者たち
そして、ツー・サンズは母のクラウドを向き、こうも言った。
「母さん。戦をしたくないのはもっともです。愛する人を喪えば、肉親も恋人も皆悲しみます。あなたの気持ちは本当に良くわかります。しかし、ただ黙って耐えるだけでは、決して解決することができないこともあります。今、私たちができることは、この部族を守り、次世代の戦士や、それを支える女性たちを育てることです。どうか二人とも、喧嘩をやめて下さいませ。さもなければ、先ほど炎に投げ込んで壊れた壺のように、我らが部族は四散してしまいます。族長ビッグ・ホース。その妻であるジェントリー・クラウド。若い愚かな娘の発言をどうかお許し下さい」
両親は、憑き物が落ちたように冷静になり、はにかみ合い、手を握り、抱き合った。
「我が娘、ツー・サンズよ。よくぞ言ってくれた。お前の聡明さには、常々感心しておる。我ら二人は、今後決して喧嘩しないことをここに誓おう。皆が手を取り合い、協力し合い、白人の迫害を避けながら、部族を守ろう」
「偉大なる族長であり、我が父である、ビッグ・ホース。一世一代の望みがあります。私はまだ、齢15になったばかりの未熟な娘ですが、頭脳にはいささか自信があります。ただ、一人では、強大かつ盛大な白人たちに勝つことはとてもできますまい。私に1頭の丈夫な馬と食糧、地図、護身具をお貸し下さいませ。5年頂ければ、部族を、いや、この母なる大地を救う逸材を、必ずや探して参ります」
翌朝、ツー・サンズはまだ明けきらぬ太陽の下、馬の背に跨り、両親の見送りを受け、一人旅立った。
ツー・サンズの目にうつるのは、赤茶けた生の匂いのしない砂漠であり、薄汚れた草木、そして、枯れ果てた川の跡であった。
耳にはコヨーテの遠吠えが聞こえ、鼻にはバッファローの死臭が漂い、天には禿鷹が舞っている。
それでもしかし、ツー・サンズの心は、蒼い炎のように静かに燃えていた。
ビッグ・コレクターがどこから来て、いつからアラパホ族と共に住み始めたのか、誰も知らない。ある者は、砂漠の上で一人泣いていたと言い、またある者は、大河の畔で捨てられていたと言う。
もちろん、ビッグ・コレクター自身が知るはずもない。
彼女はビッグという名とは裏腹に、孤児故に常に食に飢え、痩せこけていた。埃だらけで艶のない癖毛、垢まみれの衣服、青白い顔色ながら、細い眼だけは炯々けいけいと光っていた。彼女は孤児ということもあり、族長や長者から食物を恵んでもらい、それで生をつないでいた。
彼女には、友人と呼べる存在もほとんどなく、同年齢の子どもたちの遊びにも加えてもらえなかった。
彼女はいつも一人で、何かを見ていた。
それは、日々の雲の流れだったり、川に寄りつく魚の群れだったり、大草原を駆け抜けるバイソンたちであった。することもないまま、日々さまざまな物をひたすらに何年も観察していると、自然といろいろなことがわかるようになった。
それは、雨季の到来の時期だったり、ヘラジカの繁殖期だったり、今年のトウモロコシの不作豊作を見わける観察眼と深い洞察力であった。しかし、友のない彼女のその才を、まだ知る者はなかった。