山田くんの真実
『山田くん』こと山田康夫は、もともとはアイドルグループ『ろうりんぐ』の一員で、『おうどいろの恋』という曲で年末の歌合戦に出演したこともある。
山田くんの実家は、もともと裕福な家であったが、土地を騙し取られて窮地に陥った。山田くんは暗く落ち込んでいる家族を笑わそうとして落語を始めたらしい。それが現在の演芸の道に続いているのだろう。
また、両親が土地で苦労したことから、不動産の投機には異常な執念を燃やし、もともと努力家で勉強家であったこともあって、不動産・土地に関して専門家顔負けの知識を身につけ、自らの土地投機はもとより、土地に関する相談も喜んで受けるようになった。
パソコンの操作の腕も熟達し、土地投機だけに止まらず、株取引、FXに至るまでその腕を生かして大きな財産を築くようになっていった。
山田くんはこの頃年商三億近くを稼ぎ出し、周囲にも傲慢な発言が目立つようになっていた。アイドル時代の栄光も忘れられなかったようで、そういった発言も聞かれるようになり、最初に結婚した「けいこ」さんとはこの後離婚している。
二人目の「けいこ」さんとの結婚の後も、『投機依存症』の性癖は治らなかった。
「ちょいと、お前さん。またFXとやらで大儲けしたのかい」
「いや、今日はほんの一千万くらいだね」
「全く恐ろしいねえ。それは元は、他の誰かが損をしたお金なんだろ」
「頭の悪い奴が悪いんだいべらぼうめえ。選ばれたものだけが得をするようにできてるんだよっ」
「……あんたねえ、あんまりそんなに驕り高ぶるもんじゃあないよ」
「てやんでえ、オイラは昔、アイドルグループで紅白に出たこともある、選ばれた人間なんだよっ」
「あんたまたそれかい。困ったひとだねえ」
「さあ、今夜はこのレミー・バルタンで祝杯でも挙げるとするか」
次の日起きてみると、なんだか様子がおかしい。親子五人で納屋のような狭い部屋に、『州』の字のように煎餅布団を敷き詰めて寝ている。高級タワーマンションに住んでいたはずが木造のアパートになっている。
「お父ちゃん! 腹減ったあ~」
と子供は泣き叫んでいる。
「な、なんだあ? メシなんか、昨日ネットの波で儲けた一千万円で何か買えばいいじゃねえか」
「え、なんだい? 一千万円? どこにそんなお金があるのさ?」
「一千万どころか、今までオイラが土地や株やFXで儲けたお金はどうしたんだ」
「何言ってるんだよ。お前さん、パソコンは苦手で触れもしないじゃないかい。FXだかSEXだか知らないが、うちには今貯金なんてないよ」
「すると何か? 土地や株やFXで儲けたのは夢で、酒飲んで寝たのは本当か? えれえ長げえ夢を見ちまったもんだ。もしかして『ろうりんぐ』で紅白に出たってのも夢かね」
「あんた、すとおーんと肥溜めに落ちたことはあるねえ」
「それにしても、どうして他人の金で大儲けしたなんて浅ましい夢を見たんだろう。我ながら情けねえや。もう投機はやめて、仕事に精を出すぜ」
山田くんは知り合いの『桂亭楽丸』という大御所に頼んで、『大喜利商店』という店で下働きとして働くことになった。もともとはまじめでコツコツタイプの山田くんは、座布団の上げ下ろしから精を出し、次第にお得意様も増えていった。
それから三年後の大晦日の晩。
「ああ、いい心持ちだなあ。こうして畳をとりけえた座敷で正月を迎えられるなんて。……借金取りの来ねえ大晦日なんて嘘みてえじゃねえか。今夜は紅白でもゆっくり見るかね」