ハインリヒ・フジオカの過去
その時大きな地響きとともに、地下室がまるで大時化に遭った船の船室のように、大きく揺れた。
「あああああーっ!」
「こ、これは?」
外からは瓦礫の崩れるような音や、窓ガラスが割れて張り裂けるような音が次々と聞こえてきた。
須戸麗花やフジオカや郭の一味の持っているスマホからも、緊急を知らせる非常音が鳴り響いている。
「これは、只事じゃないぞ」
いち早くヤホーのニュース画面を探し出した須戸麗花は、その画面を郭一味に見せながら言った。
「見ろ!」
「げげええええーっ!」
ドイツのダイニンゲンを震源とするマグニチュード8.9以上の地震が起こり、ビルが崩れ、各地で火災も発生しているという。
「こりゃあ、やばいな」
「お嬢ちゃん。ここはこれまでだ。出来上がったところまではいただいて行くぜ」
「ボス、早く逃げましょう」
ドアの隙間から煙が流れ込んで来ている。
「あばよ! お嬢ちゃん! 行きがけの駄賃だぜ」
「あぶない! お嬢!」
須戸麗花に向けられて発砲された銃弾は、お嬢をかばったフジオカの背中を直撃した。
「ぐはあっ!」
「フジオカー!」
郭たちは地下室のカギを施錠して、煙の中を階段を駆け上がった。
地上へのドアを開けたその瞬間……。
出口で待ち構えていたアーニーとバートに郭の一味は次々と拳銃で撃たれ、倒されていった。
郭は機転を利かせて、ドアのすぐ横にあった下水のマンホールに飛び込み、下水道伝いに逃げおおせた。
ところが、しばらく離れた場所で、地上に出てみると、周囲は地震の被害の様子も何もなく、普段のフランクフルトののどかな郊外風景が続いているだけだった。
「あれ? 地震は……?」
郭はスマホを手にして組織と連絡を取ろうとしたが、すぐにスマホの異常に気付き液晶の画面を叩き割った。
「くそっ! 一杯食わされたか……」