さいごの戦い

焼肉料理『馬謖苑(ばしょくえん)』の店内で、C国の諜報員、袁横縞と呂馬苫樋の二人は、彼らのボス郭分列からの連絡を待っていた。

「あ、あにき。そ、そんな赤い肉食っちゃあかん、体に悪いってえ」

「ハハン? 明日死ぬかもしれない身の俺たちが何心配しようってんだい。石田三成か、お前は」

「そ、それもそうだけど、お、俺がしっかり焼こうと待ってた肉を、か、かたっぱしから食われてるんで」

「ケチなこと言うんじゃねえよ。ここの飲み代も食い物代も、全部うちへの上がりから相殺してもらえんじゃねえか」

「そ、それにしたって、あ、あんまり大っぴらにやるなって、ボ、ボスからも……」

携帯から『リムジン河』のメロディーが流れた。

「おっと、そのボスからだぜ。え~っと今度のターゲットは、と。うん? 『怨み・ハラスメント』? なんだこりゃ」

ハインリヒ・フジオカと桔梗は、須戸麗花の命を受けて、北海道の椴法華に来ている。

「山田くんの調べによると、カジノ法案が通ったせいで、『アニオタ病を支援する会』の西崎海苔天が良からぬ動きをしているらしいな」

「西崎海苔天……『アニオタ病を支援する会』の黒幕ですか。どうやってそこに行きついたのです?」

「ああ、吉岡吾郎に会って来たんだわ」

「吉岡吾郎にですか?」

「そうそう、フジオカも元気だって伝えてきてやったぞ」

「吉岡吾郎に? なぜです?」

須戸麗花はあえてそれには答えずに、

「それでな、西崎は椴法華にカジノを誘致しようと暗躍しているらしい。まあすごい利権だからな。それでネットじゃあよく分からないことが多いから、実際に調べてきて欲しいんだわ」

「椴法華に……ですか」

椴法華村は、北海道渡島支庁にある静かな漁村。函館市から高速鉄道でも直行で敷設されれば一時間もかからないほどの距離だ。

「お嬢様、こちらで調べてみると、やはり椴法華のカジノリゾート計画は実際に進み始めています。西崎海苔天と複数の政治家が絡んでいて、しかもC国まで一枚かんでいるようです」

「何、C国というと、郭分列の奴か」

「そうですね」

「西崎と郭分列が組んでいるとすると相当厄介だな。フジオカ、そっちも危険かもしれんからもう一回こっちに帰って来てくれ。作戦の練り直しだ」

「お嬢様、そもそも今回の件ですが」

「なんだ?」