桔梗の里
隠れ里から強制連行されていた風間次郎斎は警察で拷問まがいの厳しい取り調べを受け、もともと高齢だったこともあって半死半生の状態になって、取り壊し中の里に連れてこられた。
それを見た桔梗は、さらにやや山奥の、そこだけは発見されていなかった隠れ里の簡易治癒施設まで次郎斎を運んだ。次郎斎は息も絶え絶えになりながら、桔梗に話し出した。
「わしは結局隠れ里の一族を全く守ることができなんだ……桔梗。お前にもとうとう、人間としての幸せを感じさせてやることも、何もできなかったのう」
「次郎斎さま……」
「もう里も壊滅してしまった。桔梗、お前はある意味自由の身じゃ」
「次郎斎さま、私はこれからどうすれば」
「なんでもできる。そうだ桔梗なんでもできるぞ。人間らしく、人としての幸せをつかむのじゃ」
「幸せって、なんでしょうか?」
次郎斎は目を細めて、桔梗を愛おしむように言葉をつなげた。
「それは、お前が見つけてみるがいい」
「私は普通の社会から隔離されて育った半端者です。人を殺めたり、傷つけたり騙したりを散々行ってきました。自分の心も欺き続けてきたのか、あるいはもう何も感じなくなっているのかさえも分かりません」
「聞くのじゃ桔梗。もう二、三日経ったらこの里を訪ねて、恐らく二人の男女が現れるはずじゃ」
「……」
「その二人が、お前の進むべき道を指し示してくれるはずじゃ」
次郎斎はその日の夜、あっさりと息をひきとった。三日後、本当に黒いスーツに身をまとった男性と、桔梗とそれほど年齢も違わないと思われる若い娘が現れた。
「え~っと、あなたが桔梗さん?」
「そうですが……あなたたちは?」
桔梗は警戒している。
「私たちはね、『怨み・ハラスメント』っていう投稿サイトをやってます。私は須戸麗花で、こっちは執事のハインリヒ・フジオカね、よろしく」
「怨み・ハラスメント……?」
「ああ、ありていに言えば、このサイトに投稿してくる人の怨みを聞いてやって、代わりに復讐をしてやる闇の組織さね」
桔梗は少し首を傾げて
「怨みの復讐ですか。でも憎しみはまた新たな憎しみを生むだけだと思うのですが」