大学時代の出会いと教訓

せっかく大学に入ったのだからという理由で、私は教職課程を有する学科を専攻しました。

大学2年生までは、特に教員になろうと思っていたわけではありません。私は人と話すのがあまり得意ではありませんでした。しかし、この学科を専攻すると接する人の数が多いため、あまりいい気持ちでは専攻していませんでした。

大学3年生になると行く教育実習も、億劫だと思いながら2年生までを過ごしました。ですがそのような私が大学を卒業する時には、いつかは何らかの形で教育現場に関わりたいと思えるようになっていました。

きっかけは、大学3年生の時に中村文昭さんの講演会を聴いたことです。講演会といっても、同じ学科を専攻していた友人に勧められてDVDで観ました。

中村さんは三重県でブライダルレストラン『クロフネ』を経営されている方で、引きこもりの人と一緒に農業を行うことで自立を支援する「耕せにっぽん」という会社を運営されたり、全国の輝いている先生を応援し、教育の発展を目指す「あこがれ先生プロジェクト!!」といった企画も手掛けていらっしゃいました。

講演の内容は、中村さんが若い頃に出会った師と仰ぐ実業家の方から人としてどう生きるべきかを学んだ話でした。その中で出てきた言葉に「頼まれごとは試されごと」というものがありました。

「人はできると思う人にしか頼んでこない。頼まれたからには相手が思い描いている着地予想を上回ること」。

中村さんは、これを実践することにより自分の人生を創造されていました。単純な私はこの言葉が妙に腑に落ちてしまい、すぐに実践することにしたのです。

私はまず、「常に目の前の人を大切にすること」をモットーとして掲げました。目の前の友人や家族、アルバイト先の方々、そして億劫だと思っていた教育実習の現場、ありとあらゆる目の前の人を徹底して大切にしました。

相手に頼まれごとをされたら、まず「この人は自分がこのくらいやってくると思っているのだろうな」と考えます。そのうえで、期待された以上の成果を届けることを必死に考えて実行しました。

大学1年生の時からなんとなく続けていた宅配ピザのアルバイトは、これを境に相手の予想を上回ることだけを考えて働き出しました。

お客様からオーダーを受け、ピザを作って配達を行う簡単な作業です。中村さんの話を聞く以前は、ごく普通に働き、時間が過ぎるのを待つだけのアルバイトでした。

しかし、中村さんの話を聞いてからは、注文されたピザを猛スピードで作り上げ、最短ルートで一秒でも早くお客様に届けようと心に誓って行動するようにしました。

オーダーの電話を切った瞬間、私の中で「スタート」の合図が鳴ります。ピザの生地を最速で伸ばすにはどうするかを考え、トッピングはどうしたら一発で適正量が盛れるのか、手の感覚を使って試行錯誤しました。

最速で届けるには信号を含めどのルートが最短なのかを徹底検証しました。アルバイトは大学の4年間ずっと続けましたが、最終的には手の感覚でグラム数が分かるようになり、ルート内の信号機は何秒で変わるかなどすべて覚えていました。

お客様は、お店から自分の家までの距離をある程度分かっていますので、お届けした際の「はやっ!」という笑顔の反応は、自分にとって最大の褒め言葉になっていました。

自分の行動が人をこんなに笑顔にできるんだと、初めて思えた瞬間でした。億劫だと思っていた教育実習も、中村さんの話を聞いた後は「人の倍動こう」と決めて行きました。

担当してくださる先生からの課題は回答を何パターンも作り、生徒には普段先生が行っているコミュニケーションの2倍話しかける。お世話になった野球部には毎日顔を出し、徹底的に練習に付き合いました。

「仕事の報酬は仕事」と言われますが、教育実習に熱心に取り組むほど、教師としてより大きな業務について教えていただいたり、生徒からの相談も増えていき、大変密度の濃い充実した教育実習になったことを覚えています。