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ガチャガチャ
アッキーママの顔はみるみると青ざめて引きつり始めた。それでも大滝ナースは常夏ハワイアンズの残酷なシステムを話し続けるのだった。
「アッキーママは最近とてもハイテンションで元気だけれども、それは双極性障害では『躁』の状態よ。元気過ぎるの。気分が良いのはわかるけど、ここで少し落ち着くまで、おひとり様を楽しんで頂戴な」
「なんで、なんでですか?」
「そうしないとまわりの人達に迷惑をかけるわ。アッキーママ自身もどんどんテンションが上がり『躁』の状態がひどくなってしまうわ」
「そんなことありません。最近はとても元気で気分が良いです」
アッキーママは大滝ナースに食って掛かった。
「だから、気分が良ければ良いほど双極性障害の患者は注意が必要よ。ジェットコースターと同じよ。気分が上がれば上がるほど急降下するわ。つまり、『躁』の状態から重い、『うつ』になってしまうわ、それでもいい?」
アッキーママは大滝ナースの説明を聞いても半分も理解できないでいた。今はこんなに元気なのである。
なにがジェットコースターだ、急降下だ、それのどこがいけないのだ、反論したい気持ちを抑えて、
「アッキーパパに連絡を取りたいです」
「もう、既に連絡してあるわ」
アッキーママはしばらく呆然として何も考えられないでいた。
そんな事ってあるのだろうか、ひどい仕打ちじゃないかと大滝ナースのことを、口をへの字にして鋭くにらみつけた。それなのに大滝ナースは、幼稚園児でも扱うような口調で、
「ほらほら、ご飯を食べて。七〇七号室は一番奥だからどうしてもご飯やお味噌汁が冷めてしまうの。だけど、今日は特別に調理室でほかほかご飯を頂いてきたわ。さあ、食べて、食べて」
そして、大滝ナースは紙コップに薄茶色の液体をポットから注いでくれた。湯気が出ていないので熱々ではないようだが、叫び続けていた喉にはちょうど良く、ごくごく、ごくんとアッキーママは一気に飲み干してしまった。
その液体は麦茶であった。大滝ナースはすぐにもう一杯、おかわりの麦茶を注いでくれた。なんとも言えない様々な感情がアッキーママの心の中で渦巻いていた。