俳句・短歌 歴史・地理 歌集 歴史 2021.03.17 歌集「風音」より三首 歌集 風音 【第33回】 松下 正樹 何気ない日常にある幸せを探しに。 優しい風を運ぶ短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 マンションに住すまふ人たちおたがひを 知らず語らず笑顔ゑがほを見せず 春が過ぎ秋が巡るもお祭りを もよほし歌ひ踊ることなし 大雪に道閉ざさるるもマンションに 雪かく作業にかかはる人なし
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『ツワブキの咲く場所』 【第4回】 雨宮 福一 床へ降り立った足は、恐ろしく白く、少女の足元に影はない。統合失調症を患ってから、彼女が傍に現れるようになった。 「……夢だ」ぽつり、私は呟いた。ベッドの上。いつもと同じ一日の始まり。ダウンジャケットを羽織って、廊下に出る戸を押し開けたら、きい、と音がした。「喉、渇いたな」カーテンの隙間から、太陽の光が差し込む。ついカーテンを開けて外を見た。木の枠に縁取られた窓からは、ざわざわ揺れる雑木林、そして手入れの行き届かない伸び放題の松が見える。ありふれた一日の始まり。階段を下りる。ふすまで仕切られた部屋を抜け、キ…