「ごめんよ、暗い話ばかりになっちまったな」

「いいえ、大丈夫です。ところで、毎日、ここのシアター・ドリームに来て何でも見ていいのですか?」

「あ~いいんだよ」

「嬉しいです。何の映画や午後ドラがあるのか楽しみです。毎日、来てしまいそうです」

「アハハ! そう言うと思ったよ。毎日、来ている人なんていないよ。ここは病院だぞ。そんなに元気な人は退院して家に帰って見れるさ。病院の優しいご配慮でわずかな娯楽を用意してくれてるわけさ。面会の人がまったく来ない患者も案外と多いんだよ。友達の面会は許されてないしな」

「まずはここ常夏ハワイアンズから『デイケア』に通える事が、目標の患者も多いんだよ。退院してもさ、精神疾患の人達はな、仕事に就くことがなかなか難しいんだよ。アッキーママだって主婦の仕事もなかなかできないだろう?」

「はい、その通りです。アッキーのお弁当も作れないんです。朝、起きることが出来ない日も多いんです。体が鉛なんです、重たくて、辛くて、なにもやる気がしなくて。

それにうつ、うつ感が強くて……、何をどう調理したらいいのか頭の中がぐちゃぐちゃで考えられないし、分からなくなります。だから、アッキーパパが毎日、朝、四時半に起きてアッキーのお弁当を作っています」

「だよな、俺たち双極性障害は、普通に暮らすことが出来ないよな」

アッキーママは深くて長いため息をつきながら首を下に沈み込ませた。それでも前歯一本は話をやめない。前歯一本は二度目の入院だと教えてくれた。前に入院した時から六年の歳月が経っていると聞いた。

何故また入院することになったのかまでは話してはくれなかったが、双極性障害(躁うつ病)の難しさをアッキーママも痛いほどわかっていた。

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。