看護副科長の報告を聞いているうち、会議は重苦しい雰囲気になってきた。

看護副科長の報告が終わった後、過誤を犯したという当事者から話を聞く必要があるということで、F看護師が呼ばれた。F看護師は、看護副科長が説明したと同じ様な事実経過を涙声になりながらも説明し、改めて

「ヒビグルとヘパ生を間違えたかも知れない。それしか考えられない」

ということを言っており、現場で回収した点滴チューブや注射器等を使いながら、薬物取り違えを起こしたときの状況を説明した。

その後、Aの主治医であるD医師が呼ばれた。D医師は、

「F看護師がヘパ生とヒビグルを間違えたかもしれないとE先生に報告したことは、私もE先生から聞きましたが、所見としては心筋梗塞の疑いがあります。病理解剖の承認を既に遺族から貰っています」

などと口頭で説明した。

J副院長も、心電図は心筋梗塞と矛盾しないといった意見を述べた。その後、今後の対応について、前記の被告人以下9名が協議した。

H事務局長は、

「ミスは明確ですし、警察に届け出るべきでしょう」

と言い、I医事課長もH事務局長の意見に同調していた。

他方、庶務課長は届出に消極的な意見を述べていた。被告人は迷いに迷っており、

「でもD先生は、心筋梗塞の疑いがあると言っているし」

などと言って、優柔不断であったが、J副院長も

「医師法の規定からしても、事故の疑いがあるのなら、届け出るべきでしょう」

と言った。