【前回の記事を読む】女友達と旅行する気分で彼の実家へ――異性として意識していなかったが、隣り合わせの和室をあてがわれ…

2章 一本道と信じた誤算

山川の郷里に同行した翌月、春のパーティー開催の打ち合わせのため、サークルのW先生の家に会員が集まった。

広間にテーブルを並べ、予算を立てたり、仕事の割り振りを決めたりしたあと、持ち寄ったごちそうを食べていい気分になり、さあ、これからいろいろ話をして打ち解けよう、という時間だった。用があるのでこれで帰る、と越前が言い出した。

「え? でも、何のご用ですか?」

あさみが尋ねると、「犬の散歩を忘れていた」などと答える。

「電話をかけて、お母様かどなたかに頼むことはできないんですか?」

なんとか引きとめたかった。彼がいるから楽しいので、彼が帰ってしまったら、火の消えた暖炉みたいに部屋の中が寒々としてしまう。

「おふくろはエサもやらない」

「じゃ、お兄様かどなたか」

「兄貴達と親父は仕事をしている」越前のうちは会計事務所だ。二人の兄が父親を手伝い、彼だけ外へ出てサラリーマンになった。航空関連の会社だと聞いている。

「でも、もうちょっとだけいらしてもいいでしょう? ワンちゃんなら、少しくらい待ってくれますよ」